先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。 「今期は利益が想定より出そうなので、自分の役員報酬を月20万円上げたんです。これで税金も減らせますよね」

結論から言うと、これは逆効果でした。上げた分の20万円は経費として認められず、むしろ余分な税金を払う羽目になったのです。

役員報酬は「期首から3ヶ月」が勝負どころ

役員報酬には「定期同額給与」という原則があります。事業年度が始まってから3ヶ月以内に決めた金額を、そのまま1年間変えずに支払い続ける必要があるというルールです。

この社長のケースでは、決算まで残り半年というタイミングで報酬を月20万円アップさせました。本人としては「利益が出たから経費を増やして節税しよう」という判断だったのですが、税務上はそう単純にいきません。

上げた20万円がまるごと否認される

期中に増やした報酬は、定期同額給与のルールから外れます。その結果、増額分の20万円は損金、つまり会社の経費として認められません。

半年間で言えば120万円分が否認の対象になります。この120万円には法人税がかかり続けるため、実効税率で計算するとおよそ40万円、本来払わなくてよかったはずの税金を追加で納めることになりました。

節税のつもりが、逆に会社のキャッシュを減らす結果になったわけです。

なぜ「今すぐ上げる」がNGなのか

会社を経営していると、「今期は儲かっているから、その分を自分の報酬に反映させたい」と考えるのは自然な感覚だと思います。

ですが役員報酬は、会社の利益に応じて自由に調整できる経費ではありません。期首の段階で「今期はこれくらいの利益が見込めそうだ」という予測を立て、その予測に基づいて年間の報酬額を一度だけ決める、いわば一発勝負の設計になっています。

期中に利益が読みにくいのは仕方のないことですが、だからこそ役員報酬の決定には、ある程度の余裕を持った利益予測と、税理士との事前のすり合わせが欠かせません。

節税ではなく「先送り」になっているケースも多い

もうひとつ知っておいていただきたいのは、役員報酬を上げること自体が、必ずしも節税につながるとは限らないという点です。

会社の税金は減っても、社長個人の所得税・住民税・社会保険料が増えます。法人と個人を合わせたトータルの負担で見ると、税金を減らしているというより、法人から個人へ税負担を先送りしているだけ、というケースが少なくありません。

目先の決算対策として報酬を動かす前に、法人と個人を通算した負担がどう変わるのかを確認しておく必要があります。

今期の利益が読めてきたら、来期の準備を

この社長のように「今期の利益が出たから今すぐ報酬を上げる」という判断は、税務上のルールと噛み合わず、余計な税負担を生んでしまいます。

報酬を見直したいのであれば、動かすタイミングは来期の期首です。今期の着地見込みが固まってきたこのタイミングこそ、来期の役員報酬をいくらに設定するか、税理士と一緒にシミュレーションしておく好機だと言えます。

まだ今期の役員報酬を決算対策として動かそうと考えているなら、一度立ち止まって、来期に向けた設計に切り替えることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。