先日、年商3億円の建設会社の社長からこんな相談を受けました。「今期は利益が出そうだから、自分の役員報酬を月120万円まで上げようと思うんですが、それって得なんですかね」。

多くの社長が同じ発想をします。会社の利益として法人税を払うくらいなら、自分の報酬として受け取ったほうがいい。一見もっともらしい理屈ですが、実はこの考え方、税率の仕組みを見落としています。

報酬を上げるほど税金が重くなる理由

個人の所得税と住民税は累進課税です。課税所得が900万円を超えるあたりから所得税率は33%に上がり、住民税10%と合わせると実質43%程度の負担になります。さらに課税所得1,800万円を超えれば所得税率は40%、合計で50%に迫ります。

一方、中小企業の法人税の実効税率はおおむね30%前後が目安とされています。つまり役員報酬を際限なく引き上げていくと、ある水準からは「法人で30%納めるより、個人で40%以上納める」ほうを選んでいることになるわけです。

加えて見落とされがちなのが社会保険料です。役員報酬が上がれば厚生年金・健康保険の会社負担分も比例して増え、実質的な負担率をさらに押し上げます。月100万円クラスの報酬になると、この社会保険料の重さが無視できないボリュームになってきます。

では法人に残せばいいのか、というとそれも違う

先ほどの社長にそう説明すると、次に返ってくるのはたいてい「じゃあ報酬を下げて法人にお金を残せばいいんですね」という反応です。

これも半分正解で半分不正解です。法人に利益を残せば、その年の実効税率は30%程度に抑えられます。ただし、その利益はいずれ配当や退職金という形で個人に戻ってくることがほとんどです。

配当で受け取れば配当課税が、退職金で受け取れば退職所得課税がかかります。退職所得は勤続年数に応じた控除があるぶん税負担は軽めになりやすいですが、いずれにせよ「法人税を払った後のお金に、もう一段階税金がかかる」という構造そのものは変わりません。法人に残せば税金がゼロになるわけではなく、課税のタイミングが先送りされているだけ、という理解が近いでしょう。

釣り合う水準をどう探すか

ここまで整理すると、答えは「個人の限界税率と法人の実効税率が釣り合う水準を探す」という話に収束します。

目安として、課税所得900万円前後(所得税率33%)のラインが、法人の実効税率30%と近い水準になってくると言われています。このあたりを超えて報酬を積み増していくと、個人課税のほうが重くなりやすい、という考え方です。

ただし、これはあくまで一般的な目安にすぎません。実際には次の要素で最適水準が変わってきます。

  • その期の会社の利益額(利益が薄い期に報酬を上げすぎると赤字転落のリスクがある)
  • 社会保険料の会社負担・個人負担のバランス
  • 将来の退職金設計をどう組むか
  • 配偶者や家族への役員報酬分散の余地があるか

冒頭の社長のケースでは、月120万円への引き上げは見送り、現状の報酬水準を維持しつつ、決算期の利益を見ながら賞与的な調整を検討する方針に落ち着きました。

注意しておきたいこと

役員報酬は一度決めると期中で自由に変更できません。定期同額給与の原則があるため、基本的には事業年度開始から3か月以内に決めた金額を1年間維持する必要があります。「利益が出そうだから今月だけ上げる」といった調整はできない点は、あらかじめ押さえておく必要があります。

また、退職金を絡めた設計をするなら、在任期間や功績倍率の考え方も含めて事前にシミュレーションしておいたほうが、後々の手戻りが少なくなります。

役員報酬の設定は、一度decideすると1年間動かせない意思決定です。次の決算期を待たず、今のうちに自社の利益水準と照らし合わせて見直しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。