先日、年商3億円ほどの製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。

「自分の給料、毎年なんとなく決めてるんですよね。多すぎると税金が高くなるし、少なすぎるのも損な気がして…」

その一言に、思わず「それ、かなりもったいないですよ」と答えてしまいました。

役員報酬は、感覚で決めていい数字ではありません。ちゃんと「最適な額」が存在するんです。

役員報酬は「二重課税」のど真ん中にある

会社が利益を出せば法人税がかかります。一方で、社長が給料を受け取れば所得税と社会保険料がかかります。

ここに役員報酬の難しさがあります。報酬を増やせば会社の利益(=法人税の課税対象)は減る。でも代わりに、社長個人の税負担と社会保険料が増えていく。この「トレードオフ」をどこで折り合わせるかが、節税の肝になります。

つまり、「法人税」と「所得税+社会保険料」の合計額が最も小さくなるポイントを探すのが、正しい役員報酬の決め方なんです。

報酬が低すぎても、高すぎても損をする

極端な例で考えてみましょう。

役員報酬をゼロにすると、会社の利益がそのまま残ります。中小企業の法人税率は実効税率でおよそ25〜35%。利益3,000万円なら、700万〜1,000万円以上が税金として消えていきます。

逆に役員報酬を高く設定しすぎると、今度は所得税の累進課税が牙をむいてきます。年収が1,800万円を超えると所得税率は40%、4,000万円超では45%にもなります。さらに社会保険料(健康保険・厚生年金)は報酬が増えるほど上限に向かって積み上がっていく。

「多ければ多いほどいい」でも「少なければ少ないほどいい」でもない。その中間に、税負担が最小になる「スイートスポット」があります。

年収800〜1,200万円前後が一つの目安になる理由

実務上、年商2〜5億円規模の中小企業では、役員報酬が年収800万〜1,200万円前後に落ち着くケースが多いです。

この水準には、いくつかの理由があります。

まず、所得税の税率が33%になる課税所得695万円超のラインを超えてくるあたりから、個人課税の負担が急加速し始めます。一方でこの水準であれば、法人側にもある程度の費用計上ができ、利益の圧縮効果も得られます。

また、社会保険料の標準報酬月額は上限があるため、報酬が一定額を超えると「それ以上増やしても保険料は変わらない」ゾーンに入ることもあります。この上限到達後に追加で報酬を増やすかどうかも、判断のポイントになります。

ただし「800〜1,200万円が正解」と断言するつもりはありません。会社の利益規模、家族構成、他の役員への報酬、退職金の積み立て方針によって最適解は変わります。あくまで「よくある着地点」として参考にしてください。

差額は年間数百万円になることもある

「少し最適化すれば数十万円くらい変わるかな」と思っている社長も多いのですが、実際はそんなレベルでは済まないことがあります。

報酬設定を誤ったまま何年も経営していると、累積の損失は1,000万円を超えることも珍しくありません。年間200〜300万円の差が5年続けば、それだけで1,000万円以上のインパクトになります。

税金は、払いすぎても国は返してくれません。だからこそ、毎期きちんと試算して「今期はこの水準が最適」という判断を積み重ねていくことが大切です。

役員報酬は「期首に決めたら1年動かせない」

一点、非常に重要な注意があります。

役員報酬は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に決定し、その後1年間は変更できません(定期同額給与のルール)。途中で「やっぱり増やしたい」「利益が出たから下げたい」と思っても、税務上は認められないケースがほとんどです。

変更が認められるのは、業績が著しく悪化した場合など、かなり限定的な状況に限られます。だからこそ、「期首に正しく決める」ことが重要で、決算を待ってから考えるのでは手遅れになります。

今期の決算前に、一度シミュレーションしてみてください

「自分の報酬が本当に最適かどうか」、多くの社長は意外と確認していません。

顧問税理士に「法人税と所得税の合計が最小になる報酬額を試算してほしい」と相談してみてください。それだけで見えてくるものがあります。もし顧問税理士からそういった提案が出ていないなら、ぜひ自分から切り出してみることをおすすめします。

節税は派手な手法ではなく、こうした「基本の数字を正しく設計する」積み重ねで実現するものです。役員報酬の最適化は、その中でも最も影響の大きい一手です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。