今年の役員報酬、もう決めましたか?

先日、ある製造業の社長(年商3億円)から「まだ今期の報酬、去年と同じままにしてますよ」と言われて、少し心配になりました。決算が終わり、新しい期が始まったばかりのこの時期。実は役員報酬を動かせる「窓」は、今だけなんです。

役員報酬を変えられるのは期初3ヶ月だけ

税法上、役員報酬を損金(経費)として認めてもらうには「定期同額給与」が原則です。毎月同じ金額を払い続けること——これが条件です。そして変更できるのは、事業年度が始まってから3ヶ月以内に限られています。

3ヶ月を過ぎると、次の期まで同じ金額を払い続けるしかありません。「やっぱり上げたい」「業績が落ちてきたから下げたい」と思っても、途中では動かせない。最長で1年以上、最適ではない金額が固定されてしまうのです。

逆に言えば、この3ヶ月は一年分の手取りを決める最も重要な時期。今が動き時です。

高すぎても低すぎても、どちらも損する

ここでよく誤解されるのが、「役員報酬は高ければ高いほどいい」という考えです。

報酬を上げれば個人の所得税が増えます。住民税を含めると最大55%近くが税金に消える計算で、年収が高い社長ほどこの影響は大きい。3,000万円を超えるあたりから、1円増えても手元に残るのは45円ほどです。

一方、報酬を低く抑えすぎると法人に利益が積み上がります。それはそれで法人税(実効税率約34%)がかかります。「個人の税率が高いから会社に残そう」という発想は間違いではありませんが、会社に残した分も課税されることを忘れてはいけません。

つまり最適解は、個人の所得税率と法人税率が交差するポイントにあります。ここを外すだけで、年間200万円以上手取りが変わるケースは珍しくないのです。

数字で見ると差は歴然

少し具体的な数字で見てみましょう。法人の年間利益(役員報酬支払前)が4,000万円のケースを例に取ります。

役員報酬を1,000万円に設定した場合、法人には3,000万円の利益が残り、法人税は約1,020万円。個人の税負担は約230万円。合計約1,250万円が税に消えます。

同じ条件で報酬を2,500万円にすると、法人利益は1,500万円に減り、法人税は約510万円。ただし個人の所得税・住民税は約860万円に増えます。合計約1,370万円。

報酬を3,500万円まで上げると個人の税負担が膨らみ、合計では1,700万円を超えることもあります。

この試算はあくまで概算ですが、報酬額の設定次第で、税の合計は数百万円単位で変わります。どの設定が自社に最適かは、利益の水準によって毎年変わるのです。

「去年と同じ」が一番危ない理由

よく見られるのが、「特に変わらないから去年と同じでいいか」というパターンです。

ところが会社の業績は毎年変わります。売上が伸びた年も、経費が増えた年も、借入返済が重なった年も——それぞれで最適な報酬額は異なります。去年の設定が今年も最適である確率は、それほど高くありません。

特に、直近で法人の利益が大きく増えた、あるいは減ったというケースは要注意です。「去年と同じ」を続けることは、何もしていないように見えて、実は毎年少しずつ損をしている状態かもしれません。

今すぐやること:税理士に「利益予測」を出してもらう

役員報酬の最適化を進めるための第一歩は、今期の利益がどのくらいになりそうかを試算することです。

期が始まったばかりで正確な数字はわからないかもしれません。ただ、3ヶ月という期限がある以上、完璧な数字を待ち続けるわけにもいきません。去年の実績と今年の受注状況をもとに、「おそらくこのくらい」という前提で動き出すのが現実的です。

税理士に相談する際は、「今期の利益見込み」「現在の個人の税率(源泉徴収票や昨年の確定申告書があるとスムーズ)」「社会保険料の負担感」の3点を伝えると話が早くなります。役員報酬の変更には取締役会または株主総会の決議と議事録も必要なので、そちらの準備も忘れずに。


もし顧問税理士とまだ今期の報酬の話をしていないなら、今週中に一本連絡を入れることをおすすめします。期初の3ヶ月は、何もしなければ静かに過ぎ去ります。でもちゃんと動けば、一年分の手取りが変わる話です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。