先日、ある製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「役員報酬を月5万円下げようか迷っているんです。効果ってあるんですか?」
結論から言うと、効果はあります。ただし、それが「得」かどうかは別の話です。
月5万円の差が生む、年間60万円という数字
役員報酬を月5万円減らすと、年間で60万円分、法人に残る利益が増えます。単純な引き算です。
ただし、この60万円がそのまま会社に残るわけではありません。増えた利益には法人税がかかります。実効税率を考えると、手元に残る金額は60万円よりも小さくなります。
一方で、社長個人の手取りはどうなるでしょうか。役員報酬が減れば、その分だけ所得税・住民税・社会保険料の負担も下がります。特に社会保険料は、報酬水準によっては数万円単位でインパクトが出ることがあります。
減らさなかった社長に、何が起きていたか
私が見てきた中で、役員報酬を高いまま据え置いていた社長の多くは、こう話します。
「思ったより手取りが増えていない」
理由は単純で、所得税は累進課税だからです。役員報酬が上がるほど、税率も社会保険料の負担率も上がっていきます。額面が増えても、その増加分の多くが税金と社会保険料に消えていく構造になっています。
一方で法人側に利益を残さなかった分、設備投資や将来の役員退職金の準備といった、法人でしかできない節税の選択肢を使いきれていないケースも目立ちます。
社会保険料が下がる代わりに失うもの
「じゃあ役員報酬を下げれば得なんですね」と聞かれることがよくありますが、そう単純でもありません。
社会保険料が下がるということは、将来受け取る厚生年金の金額も下がるということです。目先のキャッシュフローは改善しても、20年後、30年後の年金額に響いてきます。
さらに、住宅ローンの審査や個人の信用力にも役員報酬の額面は影響します。個人としての与信を重視するなら、報酬を下げすぎるのは得策とはいえません。
法人と個人、どちらに利益を残すか
ここまでの話をまとめると、役員報酬の増減は「得か損か」の二択ではなく、法人と個人のどちらに利益を残すかという設計の問題です。
例えば、法人に利益を残せば、設備投資や人材採用、将来の役員退職金の原資として活用できます。個人に残せば、目先の生活資金やローンの与信、資産形成の自由度が上がります。
どちらが正解かは、会社のステージ、社長の年齢、退職金の準備状況、家族構成などによって変わります。同じ「月5万円」でも、40代の社長と60代の社長では意味合いがまったく違うのです。
まずは自社の分岐点を知ることから
役員報酬の見直しは、決算の数字が固まってからでは手遅れになりがちです。次の期が始まる前、少なくとも決算の2〜3ヶ月前には、法人税と個人の税・社会保険料の両方をシミュレーションしておくことをおすすめします。
まだ役員報酬を「なんとなく」で決めているなら、次の改定のタイミングで一度、法人と個人のバランスを数字で見直してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。