先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。 「急に業績が伸びたから、来月から自分の役員報酬を上げたいんだけど」。

悪い話ではありません。ただ、残念ながらそれは原則できません。役員報酬は「思い立った時に変えられるもの」ではなく、「変えられる窓が年に一度しか開かない」制度になっているからです。

役員報酬は好きなタイミングで変えられない

会社の経費の中で、役員報酬は少し特殊な扱いを受けています。従業員の給料と違い、社長が自分の意思だけで金額を決められてしまうため、利益操作の道具に使われやすいという事情があります。

そこで税務上は「定期同額給与」というルールが設けられています。事業年度を通じて毎月同じ金額を支払う役員報酬でなければ、増額した部分が経費として認められないという仕組みです。

毎月コロコロ金額を変えるような会社に、税務署が甘い顔をするはずがありません。だからこそ、変更できるタイミングがあらかじめ限定されているのです。

改定できるのは決算後3ヶ月以内だけ

具体的には、事業年度が始まってから3ヶ月以内に決めた金額であれば、その期はずっとその金額で支払い続ける限り、定期同額給与として経費に認められます。

3月決算の会社であれば、4月・5月・6月のいずれかで来期の報酬額を確定させる必要があるということです。これを過ぎてから「やっぱり報酬を上げたい」と思っても、原則として次の決算を待つしかありません。

実際、7月や8月になってから相談に来られる社長は少なくありません。業績が好調で、増えた利益をなんとか役員報酬という形で自分に還元したい、というお気持ちはよく分かります。

ですが、期限後に増額してしまうと、増額分は損金不算入、つまり経費にならないまま法人税がかかり、さらに個人としては増えた給与に対する所得税・住民税も普通にかかります。会社と個人の双方で税負担が重くなる、典型的な失敗パターンです。

なぜ「決算前」が社長の一大イベントなのか

ここで重要になるのが、決算を迎える前の準備です。決算が締まってから3ヶ月の猶予はあるとはいえ、実際には期首の時点で来期の業績をある程度見通し、報酬額を決めておく必要があります。

売上や利益の着地見込みがまだ固まっていない段階で報酬額を決めるのは、正直勇気が要る作業です。それでも、ここで見通しを立てずに期首の3ヶ月をやり過ごしてしまうと、業績が伸びても報酬に反映できず、法人側に利益と税負担だけが積み上がっていきます。

逆に、利益が伸び悩みそうな期に高い報酬を据え置いてしまうと、今度は会社の資金繰りを圧迫しかねません。決算対策というと期末の駆け込みをイメージしがちですが、役員報酬に関しては期首の判断こそが最大の節税ポイントになるのです。

例外的に変更できるケースもある

なお、業績が著しく悪化した場合の減額や、代表取締役への就任といった役職の変更に伴う改定など、一定の事情があれば期の途中でも変更が認められる場合があります。ただしこれらは要件がかなり限定的で、単に「資金繰りが厳しくなってきたから」といった理由だけでは認められないケースもあります。

途中改定を検討する場合は、要件に当てはまるかどうかを事前に税理士へ確認しておくことをおすすめします。

もし今期がすでに始まって3ヶ月を過ぎてしまっているなら、来期に向けて今のうちから業績予測を立て、決算月の前後で報酬額を検討するスケジュールを組んでおくと安心です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。