先日、ある社長からこんな相談を受けました。「顧問税理士に役員報酬をゼロにすれば節税になると言われたんですが、本当ですか?」と。
その会社、年商3億円で利益が年間2,000万円ほど出ていました。でも役員報酬がゼロのまま放置されていて、2,000万円がほぼそのまま法人税の課税対象に。正直、もったいないな、と思いました。
役員報酬ゼロにすると何が起きるか
役員報酬をゼロにすると、会社の利益がそのまま残ります。
これ、一見「お金が会社に残って良いこと」に聞こえますが、課税の観点では話が別です。中小企業の法人実効税率は、課税所得800万円以下なら約23%、800万円を超えると約33〜34%に上がります。
たとえば会社に2,000万円の利益があった場合、単純計算で約600〜680万円が法人税等として消えていきます。社長の手取りが増えるどころか、税金を余分に払い続けているケースが少なくありません。
役員報酬を設定することで何が変わるか
役員報酬は、法人の「損金」として計上できます。つまり、役員報酬を払うと、その分だけ法人の課税所得が減ります。
たとえば月50万円の役員報酬を設定すると、年間600万円が損金に。利益2,000万円の会社なら課税所得は1,400万円に圧縮されます。
一方、社長個人には600万円の給与所得が発生しますが、給与所得控除(年収600万円なら174万円)が使えるので、実際の課税所得はかなり低くなります。法人全体で負担する税額と比べると、トータルでは税負担が下がることが多いです。
「月50万円」という目安はどこから来るのか
月50万円という金額がよく言われるのは、ある意味「法人税率と個人所得税率の分岐点に近いから」という理屈があります。
社長個人の税率が法人税率を上回ると、役員報酬を増やしすぎると逆に損になります。法人と個人の税率が交差するポイントを探すのが基本的な考え方です。
ただし、これはあくまで目安です。会社の利益水準、社長以外の家族や役員への報酬、個人の副収入や投資所得などによって、最適解はまったく変わってきます。「月50万円」が万能の答えではありません。
見落としがちな「社会保険料」の影響
役員報酬を設定すると、社会保険への加入が必要になります(一定の要件あり)。
健康保険・厚生年金の保険料は、役員報酬が高いほど会社負担も増えます。月50万円の場合、会社と個人を合わせた社会保険料は年間80〜100万円規模になることも。この負担を加味しないと、試算が大きくズレます。
逆に言えば、社会保険料は老後の年金や傷病時の保障として返ってくるお金でもあります。「節税」一本で考えるのではなく、ライフプランも含めて設計することが重要です。
結局、いくらが最適なのか
正直なところ、「誰にとってもベストな金額」はありません。ざっくりした判断基準を挙げると:
- 会社の利益が年1,000万円を超えているなら、役員報酬ゼロは損になりやすい
- 月30〜80万円の範囲で個人・法人合算の税負担を試算するのが基本
- 役員が複数いるなら、それぞれへの配分設計も必要
そして重要なのは、年度の途中では変更できないことです。役員報酬は原則として事業年度開始後3ヶ月以内に決定し、その後は原則変更不可。今期の着地が見えてきたタイミングで、来期の設定を税理士と一緒に見直すのがベストです。
役員報酬ゼロのまま何年も放置しているなら、今すぐ試算してみてください。意外な金額を損しているかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。