先日、創業10年の建設会社を経営するT社長から、こんな連絡がありました。
「先月、受注が急に増えたので自分の報酬を少し上げたんですが……問題ありませんよね?」
残念ながら、問題大ありです。そのまま申告すれば、増額した分の役員報酬が法人税の計算上「なかったこと」にされてしまいます。
役員報酬はなぜ自由に変えられないのか
会社員の給与と違い、役員報酬には厳しい制約があります。
法人税法では、役員報酬を損金(経費)として認めるための条件として、「定期同額給与」であることを求めています。毎月同じ金額を払い続けなければ、経費として認められないのです。
なぜこんなルールがあるのか。それは、利益が出そうなときだけ報酬を増やして税金を減らす操作を防ぐためです。役員は会社の支配権を持っているため、そうした「恣意的な操作」が起きやすいと税務当局は見ています。
変更が認められる3つのタイミング
一切変えられないかというと、そうではありません。法律上、次の3つのタイミングに限り、変更が認められています。
① 事業年度開始から3ヶ月以内の「通常改定」
これが最も一般的な変更方法です。期首から3ヶ月以内に株主総会や取締役会で決議すれば、その期全体の報酬として損金算入が認められます。年度末に業績を振り返り、翌期の報酬額を決める——この流れが税務上の正攻法です。
② 役職変更に伴う「臨時改定」
代表取締役から取締役に変わった、新たな事業部門を正式に担当することになった……そういった「組織上の理由」がある場合に限り、期の途中でも変更が認められます。この点については後でもう少し掘り下げます。
③ 業績が著しく悪化した場合の「業績悪化改定」
取引先の突然の倒産や業界全体の急激な落ち込みなど、財務状況が著しく悪化したと認められるケースに限り、減額が認められます。ただし「著しく悪化」の水準は厳しく、単に利益が想定より少ないというだけでは通りません。
「役職・担当業務の変更」という合法的な活用
実務で注目されるのが、②の臨時改定です。
たとえば、これまで経営全般を見ていた社長が、新規事業の責任者を正式に兼任することになった——こういった場合には「担当業務の変更」として、期中の報酬改定が認められる可能性があります。
重要なのは、形式だけでなく実態が伴っていることです。議事録や職務分掌規程など、業務変更を証明できる書類を整えておかないと、税務調査で否認されるリスクがあります。
また、臨時改定はあくまで「役職・担当が変わった」という事実が先にあるべきで、「増額したいから理由を後付けする」という使い方は通用しません。その点だけはご注意ください。
「期中に増やした」ときに何が起きるか
T社長のように、事前の手続きなく途中で役員報酬を増額した場合はどうなるか。
増額した分——たとえば月30万円から50万円に上げたなら、差額の20万円×残り月数分——が損金として認められず、法人税の課税対象に含まれます。
売上が増えて報酬を上げたい気持ちは当然ですが、それが原因で税負担が大きく増えるのでは本末転倒です。「来期から上げる」と決め、期首3ヶ月以内に正式決議する。このひと手間が、数十万円単位の節税になります。
まだ3ヶ月以内なら、今が動けるタイミング
役員報酬は「変えたいときに変えられないもの」です。この制約を知らずに動くと、税務調査で大きなリスクを抱えることになります。
逆にいえば、3つのタイミングをきちんと把握しておけば、合法的に報酬設計を最適化することは十分に可能です。もし現在の事業年度が始まってまだ3ヶ月以内であれば、今が動けるラストチャンスです。来期の業績見込みを手元に、改めて役員報酬の水準を税理士と一緒に見直してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。