先月、年商3億円の製造業の社長から「決算前に税理士に青ざめた顔をされた」という話を聞きました。売上も利益も順調に伸びていたのに、試算してみたら「想定より200万円以上、余分に税金を払うことになる」と言われたそうです。

原因を整理してみると、役員報酬の設定に3つのミスが重なっていたことがわかりました。どれも「知らなかった」では済まない、でも意外と見落とされやすいポイントばかりです。思い当たる節がある社長は、ぜひ最後まで読んでみてください。

「途中でちょっと増やした」が損金否認に直結する

その社長が最初にやってしまったのが、業績が上向いてきた期の途中に「役員報酬を少し上げた」という行為です。気持ちはよくわかります。頑張った自分へのご褒美、会社の成長の証として増やしたくなる。でもこれが、税務上は大きな落とし穴になります。

役員報酬には「定期同額給与」という要件があります。ざっくり言うと、「毎月同じ金額を定期的に払わないと、経費として認めない」というルールです。期の途中で増額すると、増えた差額分が損金不算入となり、法人税の計算では「経費ゼロ」扱いになってしまいます。

たとえば月50万円の役員報酬を、期の中間から70万円に上げたとします。増額分20万円が残り6ヶ月分、合計120万円が経費から除外されます。法人税の実効税率が約34%なら、それだけで40万円超の余分な税負担です。「業績が良かったから増やした」という判断自体は正しくても、タイミングを外すと裏目に出てしまうのです。

法人と個人、どちらに残すかで税率が変わる

2つ目のミスは、役員報酬の金額を「なんとなく」「前年踏襲」で決めていることです。実はここに、数百万円規模の最適化余地が眠っていることがあります。

法人に利益を残せば、実効税率として約33〜35%の法人税がかかります。一方、個人の所得税は累進課税で、課税所得が900万円を超えると所得税・住民税の合計税率は約43%に達します。

法人に残しすぎても、個人に集めすぎても、どちらも損。「法人の実効税率」と「個人の限界税率」が交差する水準を見極めて役員報酬を設定することが、節税の基本中の基本です。このバランスは利益水準や家族構成、社会保険の負担感によっても変わるため、毎期きちんとシミュレーションをしなければ意味がありません。「去年と同じでいいか」という判断が、毎年数十万〜数百万円の無駄な税負担を生んでいることがあります。

年に1度の「変更チャンス」を見逃している社長が多い

3つ目のミスは、そもそも役員報酬を変更できるタイミングを把握していない、というものです。

原則として、役員報酬は事業年度開始から3ヶ月以内にしか改定できません。それを過ぎると、増額分は損金として認められなくなります。12ヶ月のうち、動けるのは最初の3ヶ月だけ。「決算が終わってひと段落してから考えよう」と後回しにしているうちに、タイミングを逃してしまうのです。

特に業績が急変した会社は要注意です。今期は利益が大きく出たので来期は報酬を増やしたい、と思っても、改定のタイミングを逃していれば翌々期まで待つしかありません。毎年の決算スケジュールに「役員報酬の見直し」を組み込んでおくだけで、このミスはほぼ防げます。

3つが重なれば年200万円は現実的な数字

この3つのミスが重なると、年間の余分な税負担は200万円を軽く超えます。冒頭の社長のケースでも、①と②が組み合わさっただけで220万円近い差が出ていました。10年スパンで考えれば、2000万円を超える差になるかもしれません。

役員報酬は「税務」「社会保険」「個人の生活設計」が複雑に絡み合う領域です。「毎期の決算2ヶ月前に、翌期の最適な役員報酬をシミュレーションしてもらう」という習慣を持っているかどうかで、長期的な手取りは大きく変わります。

まだ税理士と役員報酬の設計について踏み込んだ話をしたことがないなら、今期の改定タイミングが来る前に、一度相談してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。