先月、ある製造業の社長からこんな連絡が届きました。
「今期から売上が伸びてきたので、そろそろ役員報酬を上げようと思うんですが…来月でも大丈夫ですよね?」
この一言に、思わず「いや、来月は絶対ダメです。今週中に動いてください」と返信しました。
役員報酬は「年に1回しか変えられない」
知っている方には当たり前の話ですが、役員報酬は好きなタイミングで自由に変えられるものではありません。
税務上、「定期同額給与」として損金(経費)に算入するためには、事業年度の開始から3ヶ月以内に変更を行う必要があります。3月決算の法人であれば、4月・5月・6月前半がその窓口です。
この期間を過ぎると、次に変えられるのは翌期の4月以降。つまり、1年間ずっとその金額に縛られることになります。
「来月でいいか」の一言が72万円の差を生む
ここで問題になるのが、「まあ来月でも大丈夫だろう」という先送りの感覚です。
具体的に数字で考えてみましょう。月80万円の役員報酬を月100万円に増額したいとします。この変更を3ヶ月以内に行えば、増額分の月20万円 × 12ヶ月 = 年間240万円を追加で損金算入できます。
法人の実効税率がおよそ30%とすると、240万円 × 30% = 72万円の節税効果が生まれます。これを期限内に動けなかったというだけで、丸ごと逃してしまうわけです。
「来月でいいか」のたった一言が、72万円の差を生む。これが役員報酬の変更期限の本当の怖さです。
増額だけじゃない。「減額」も同じ期限が適用される
役員報酬を上げたい場合だけでなく、下げたい場合も同じルールが適用されます。
業績が振るわない年に報酬を下げて法人のキャッシュを守りたい、社長個人の所得を抑えて翌年の住民税や社会保険料を下げたい、といったケースも少なくありません。このような下方調整も、原則として3ヶ月以内が必要です(業績悪化による減額など一部例外はありますが、要件が厳格です)。
上げるにしても下げるにしても、この窓口を意識していないと1年間ずっとその金額に縛られます。「そのうち相談しよう」では間に合わないのが、この手続きの特徴です。
「決算前に駆け込み」は通用しない
もう一つ注意が必要なのが、決算直前のタイミングです。
3月決算の会社が3月に入ってから「今期の利益が出たので役員報酬を増額しよう」と考えても、3ヶ月の期限はすでに過ぎています。たとえ増額できたとしても、損金算入できる月数が少なく、節税効果は限定的にしかなりません。
増額するなら期初の早い段階、下げるなら業績の見通しを早めに立てる。これが基本的な考え方です。
変更に必要な手続きを確認しておく
役員報酬を変更する際には、いくつかの手続きが必要になります。
- 株主総会または取締役会での決議(議事録の作成が必須)
- 社会保険の月額変更届(標準報酬月額の改定が生じる場合)
- 給与計算ソフトへの反映と源泉所得税の計算変更
特に「議事録の作成」を忘れているケースが多いです。頭の中で決めた気になっていても、書面がなければ税務調査で否認されるリスクがあります。変更を決めたら、その日のうちに議事録の準備に入ることをおすすめします。
今すぐ顧問税理士に連絡する理由
変更額の妥当性(過大役員報酬に該当しないか)は、会社の利益水準や同業他社の水準、個人の所得税・社会保険とのバランスなどを踏まえて判断する必要があります。「なんとなく増やしたい」ではなく、最適な金額を計算したうえで動くことが大切です。
そのためにも、まず今すぐ顧問税理士に連絡して「今期の役員報酬の変更余地があるか」を確認してみてください。期限が近い今だからこそ、動ける選択肢の幅が最も広い状態です。
72万円を逃さないために、「今月中に」が合言葉です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。