先日、年商3億円の建設会社の社長から、こんな相談を受けました。
「銀行に勧められて、法人で収益マンションを買おうと思っているんだけど、どう思う?」
物件自体は悪くない。ただ、私が気になったのは別のところです。「社長、今の課税所得はいくらくらいですか?」と聞くと、「2,000万円くらいかな」という答えが返ってきました。
それなら、法人購入は少し早いかもしれません——正直にそうお伝えしました。
法人で不動産を買うのが「得」という話は広まっています。でも実際には、その効果が出る社長とそうでない社長がいます。今日は、私が判断基準として使っている3つの条件をお話しします。
第3条件:赤字が出ても耐えられる事業基盤があるか
不動産投資はリターンだけでなく、リスクも込みで考える必要があります。空室が続いたり、修繕費が重なったりして、一時的に赤字になることは珍しくありません。
ここで法人と個人の大きな違いが出ます。個人事業の青色申告では、赤字を翌年以降3年間繰り越せます。一方、法人は10年間の繰越控除が認められています。
不動産の赤字を会社の黒字と長期間にわたって相殺できる——この「時間的余裕」が法人の強みです。「3年では立て直しが難しい」という局面でも、法人なら戦略の幅が広がります。
逆に、本業が不安定な状態で不動産の損失まで重なると、経営全体を圧迫するリスクがあります。「赤字が出ても本業でカバーできる体力があるか」を最初に確認してください。
第2条件:将来、会社を後継者に渡す予定があるか
相続や事業承継を考えているなら、法人名義での資産形成は大きな意味を持ちます。
個人名義の不動産を相続する場合、登記変更・相続人間の調整・遺産分割協議と、手続きが複雑になりがちです。評価額が高ければ、相続税の負担も当然重くなります。
一方、法人名義であれば、不動産は会社の資産です。後継者への引き継ぎは、株式の譲渡や贈与という形で行えます。株式は分割しやすく、評価方法の選択肢も広い。承継スキームを組みやすいという点で、法人名義には実務上の柔軟性があります。
「まだ先の話」と思っている社長も多いですが、承継の準備を始めるのに早すぎることはありません。今から法人名義で資産を積み上げておくことが、10年後の選択肢を広げます。
第1条件(最重要):課税所得が4,000万円を超えているか
正直に言います。この条件を満たしていない方には、法人購入のメリットはほぼありません。
理由はシンプルで、税率の差です。
個人の所得税は累進課税で、課税所得4,000万円超になると税率は45%、住民税を合わせると実質55%前後に達します。一方、法人の実効税率は規模や地域によって差はありますが、最大でも約34%程度です。
この10%以上の税率差があるからこそ、法人で不動産収益を受け取ることに意味が生まれます。家賃収入を個人で受け取れば半分近くが税金になるところを、法人を経由することで手残りが変わってくる——これが法人購入の本質的なメリットです。
逆に、課税所得が2,000万円程度の方は個人税率もおよそ40%台前半。法人税率との差は縮まります。法人設立や維持にかかるコスト(登録免許税・社会保険・顧問料など)を差し引くと、手残りベースでは個人名義のほうが有利になるケースも少なくありません。
「税率差が10%以上ある状態かどうか」——まずここを確認することが、法人購入判断の出発点です。
3条件を全部満たしてから動く
法人で不動産購入を検討すべき社長の条件を整理すると、次の3つです。
- 本業に安定性があり、赤字が出ても耐えられる
- 相続・事業承継を将来的に予定している
- 個人の課税所得が4,000万円を超え、所得税率45%に近い
3つ全部を満たしている社長は、具体的な検討に進んでください。1つでも欠けているなら、まず個人名義での購入か、あるいはそもそもタイミング自体を見直すことをおすすめします。
銀行や不動産業者は「法人で買うとお得ですよ」と勧めてきます。でも彼らのゴールは融資や売買の成立であって、あなたの手残りを最大化することではありません。大きな決断の前に、税務の視点で一度立ち止まってみてください。今期の決算数字が出たタイミングで、顧問税理士に確認するのがちょうどいい機会です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。