先日、年商3億円ほどの建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。

「事務所用に1億円の物件を買おうと思ってるんですが、個人名義のほうが手続きが楽ですよね?」

思わず、「ちょっと待ってください」と声が出ました。手続きの手軽さと、税負担の重さは、まったく別の話だからです。

個人と法人、どっちで買うかで税金が「激変」する

不動産を買うとき、多くの社長が「個人か法人か」をあまり深く考えずに決めています。でも実は、この選択が毎年の税負担に数百万円単位で影響することがあります。

結論から言うと、会社に十分な利益が出ている社長であれば、法人名義で不動産を取得するほうが、トータルの税コストを大きく抑えられるケースがほとんどです。

その理由は大きく2つあります。「経費にできる範囲の広さ」と「税率そのものの違い」です。

法人なら購入費用を毎年「経費」に落とせる

法人で不動産を買う最大のメリットが、減価償却です。建物部分の購入費用を、耐用年数に応じて毎年少しずつ経費として計上できます。

例えば、鉄筋コンクリート造のオフィスビルを1億円で購入した場合、法定耐用年数は47年。単純計算でも年間200万円超が経費になります。これが毎年、会社の利益を圧縮してくれるわけです。

さらに法人では、修繕費や管理費、そして購入時のローン金利まで、不動産にかかるコストのほぼすべてを経費として処理できます。個人の場合は、経費として認められる範囲がかなり限定されますから、ここだけでも大きな差が生まれます。

税率の差が、じわじわと効いてくる

もう一つの大きな違いが、税率です。

個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税。最高税率は45%に達します。住民税10%を加えると、実質的な税負担は55%にもなります。稼いだお金の半分以上が税金に消える、という計算です。

一方で法人税の実効税率は、会社の規模によって異なりますが、最大でもおよそ33〜34%程度。中小企業であれば実質20%台に収まることも多いです。

同じ500万円の利益に対して、個人なら200万円以上が税金になるところ、法人なら100万円台で済む、というイメージです。この差が毎年積み重なると、10年で数千万円規模の差になることも珍しくありません。

「経費の広さ」×「税率の低さ」が合わさると

先ほどの社長の例で考えてみましょう。1億円の物件を法人で買った場合、年間200万円以上が減価償却で経費になります。仮に法人税率を25%とすると、それだけで年間50万円以上の節税効果があります。

さらに修繕費や管理費、金利なども経費に乗せられるため、実際にはもっと大きな効果が期待できます。個人購入では、これらの多くが「自腹」になるわけですから、差は歴然です。

注意点:万能ではないし、状況によって変わる

ただし、法人での不動産購入が必ずしも全員に最適かというと、そうでもありません。

会社の利益が少ない段階では、節税効果が薄れることがあります。また、不動産を将来売却するときの税務処理や、相続が発生したときの扱いも、個人と法人で異なります。法人で保有していることが、むしろ相続や事業承継を複雑にするケースもあります。

さらに、物件の種類(居住用か事業用か)や、ローンの組み方によっても最適解は変わってきます。「法人で買えば必ず得」という思い込みは禁物です。

今期の決算が近いなら、今すぐ動く

不動産の取得時期は、節税の観点からも重要なタイミングです。今期中に購入が完了すれば、その期の減価償却を計上できますし、関連費用も経費に乗せやすくなります。

「なんとなく個人で買おうと思っていた」という社長は、一度立ち止まって、法人名義での取得を試算してもらうことをおすすめします。税理士に「個人と法人でそれぞれシミュレーションしてほしい」と依頼するだけで、数字が見えてきます。

毎年コツコツと積み上がる節税効果は、5年・10年後に大きな差となって返ってきます。不動産の購入を検討しているなら、名義の選択こそ最初に固めておくべき論点です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。