先日、売上3億円の製造業を営む社長から「役員報酬って、途中で変えられないんですよね?」と聞かれました。そうなんです、原則として期中の変更はできません。ただ、その言葉の裏に隠れたチャンスに、多くの社長が気づいていないのです。
役員報酬は「定期同額給与」という税務上のルールで守られていて、毎月同額を支払い続けることが法人税法上の要件です。これを期中に変えると、変更分が損金として認められなくなり、税金を余分に払うことになります。
では、いつなら変えられるのか?答えはシンプルです。事業年度開始から3ヶ月以内——つまり多くの会社では4月・5月・6月の間に株主総会で決議すれば、翌月から新しい金額に変更できます。この窓口が毎年1回しか開かない「節税の改定タイム」です。
月10万円の見直しで何が変わるのか
ここが本題です。役員報酬を月10万円下げると、法人の損金(経費)が年間120万円減るため、法人税はその分上がります。一方で、社長個人の所得が120万円減るため、所得税・住民税は下がります。さらに、社会保険の標準報酬月額が下がれば、会社負担と本人負担ともに社会保険料も減少します。
この3つが重なる「甘いスポット」が存在します。特に所得が一定ラインを超えている場合、月10万円の調整で法人税の増加分より社会保険料と所得税の削減分が大きくなり、トータルで年60万円近くの節税になるケースがあります。
ただし「月10万円下げれば誰でも年60万円得する」というわけではありません。効果は現在の報酬水準・法人の利益額・扶養家族の有無・健康保険の等級など、個々の状況によって大きく変わります。
法人と個人を一体で見ることが大事
役員報酬の最適化で重要なのは、法人と個人を切り離さずに一体として考えることです。
法人税の実効税率はざっくり25〜30%程度ですが、個人の所得税は所得によって変わります。年収1,000万円を超えてくると、所得税・住民税の合計が45〜55%近くに達することも珍しくありません。
ここに社会保険料の話が加わります。健康保険・厚生年金の標準報酬月額には等級があり、報酬を下げることで等級が1〜2段階落ちれば、その分だけ会社と個人の双方の保険料負担が減ります。この「法人税・所得税・社会保険料」の3つのバランスを最適化するのが、役員報酬改定の本質です。
失敗するケースも実在する
「役員報酬を下げたほうが得ですよ」という話を聞いて、深く試算もせずに変更した結果、社会保険の等級は下がったものの法人税の増加がそれを上回り、かえって総負担が増えてしまった——そんな相談も少なくありません。
計算を誤りやすいのは、「法人税だけ」「社会保険料だけ」で判断するケースです。法人税・所得税・住民税・社会保険料の4つを同時にシミュレーションしないと、全体最適にはなりません。
また、医療費控除や扶養控除の適用状況、配偶者の収入有無なども影響します。「他の社長が成功した方法が自分にも当てはまる」とは限らないのです。
4月に確認しておきたい3つのこと
役員報酬の改定を検討するなら、今月中に税理士と次の3点を確認しておくことをおすすめします。
- 社会保険の標準報酬月額と現在の等級
- 法人の今期利益見込み(予算対比)
- 個人の所得税の実効税率
これらを把握した上で、「役員報酬の最適額を一緒に試算してほしい」とお願いするのが最短ルートです。顧問税理士がいる方は、定時総会の議案を固める前に必ず相談してください。
毎年4月が唯一の改定チャンスです。「今年はいいか」と先送りすると、次の機会は12ヶ月後。その1年で、手元に残るお金が50〜60万円変わるかもしれません。まだ今期の役員報酬を見直していないなら、この4月中に税理士へ相談することをぜひ検討してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。