先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「今期は思ったより利益が出そうだから、年末に自分の役員報酬を上げて節税しようと思うんですよね」。
悪い話ではありません。ただ、そのタイミングでは残念ながら間に合いません。
役員報酬は「期首から3ヶ月」が勝負
法人税法には「定期同額給与」という原則があります。簡単に言うと、役員報酬は事業年度の始めに決めた金額を、期首から3ヶ月以内に確定させ、そこから1年間は原則として毎月同額を支払わなければならない、というルールです。
この3ヶ月というのが実務上の絶対的な期限になります。決算期がスタートしてから90日を過ぎてしまうと、その期の役員報酬額はもう動かせないと考えてください。
年末になって「今期は儲かったから役員報酬を増やそう」と思い立っても、多くの会社にとってそれは決算期の途中、つまり期限を大きく過ぎたタイミングです。
期中に増額すると、増えた分がまるごと損金不算入に
ここで問題になるのが、期限を過ぎて役員報酬を増額した場合の税務上の扱いです。
定期同額給与の原則から外れた改定をすると、増額した差額分は「損金」として認められません。会社の経費として利益から差し引けないということです。
具体的な数字で見てみましょう。月額100万円の役員報酬を、期の途中で150万円に増額したとします。差額は月50万円。仮に残り9ヶ月この金額を支払い続けると、増額分の合計は450万円になります。
この450万円は、会社の経費にはならないのに、社長個人には給与としてまるまる支払われ、所得税・住民税がかかります。さらに会社側では、この450万円に対して法人税もかかったままです。実効税率を30%とすると、会社側だけでおよそ135万円分、余計に税金を払う計算になります。
節税のつもりが、逆に「会社と個人の両方で二重に税負担が乗る」という、一番避けたいパターンに陥ってしまうわけです。
なぜこんなルールがあるのか
理不尽に感じるかもしれませんが、このルールには理由があります。もし期中に自由に役員報酬を変えられると、決算間際に利益が出そうなときだけ役員報酬を増やして、会社の利益を圧縮する、という調整がいくらでもできてしまいます。
国としてはそれを防ぎたいので、「期首に決めた金額を1年間淡々と払い続けるなら経費として認めますよ」という建て付けにしているのです。
裏を返せば、この仕組みを理解して先回りしておけば、正々堂々と節税に使えるということでもあります。
では、どうすればいいのか
答えはシンプルで、「来期の見込みを、今期のうちに立てておく」ことです。
決算が近づいてきたら、来期の売上・利益予測をざっくりでも立てて、それに見合った役員報酬額を来期の期首3ヶ月以内に決めてしまう。これだけで、今回のような「気づいたときには手遅れ」という事態を避けられます。
また、賞与という形で年度途中に臨時で支払う方法もありますが、これも「事前確定届出給与」という別の届出を、原則として株主総会等の決議から1ヶ月以内に税務署へ提出しておく必要があります。思いついたときにすぐ払えるものではない、という点は役員報酬の増額と同じです。
顧問税理士との「期首打ち合わせ」を習慣に
役員報酬は、一度決めたらその期は基本的に変更できません。だからこそ、決算が締まって次の期がスタートする前後のタイミングで、顧問税理士と来期の利益予測・役員報酬額を一緒に確認する打ち合わせを、毎期のルーティンにしておくことをおすすめします。
「儲かってから考える」のではなく、「儲かる前提で仕込んでおく」。役員報酬の設計は、この発想の転換だけでずいぶん結果が変わってきます。
もし今期すでに3ヶ月を過ぎてしまっているなら、今からできることは限られています。まずは来期の期首に向けて、今のうちから顧問税理士に相談しておくと安心です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。