先日、顧問先の社長からこんな話を聞きました。「3年前に役員報酬を上げたんですが、その増額分だけ税務調査で否認されたんです」。
詳しく聞いてみると、決算期が始まって半年ほど経ったタイミングで、業績が良かったからと月20万円だけ報酬を上乗せしていたそうです。それから3年後の税務調査で、その増額分がまるごと経費として認められませんでした。
「3年も前のことが、なぜ今さら」と社長は驚いていましたが、これは役員報酬の仕組みを知っていれば起こらなかった話です。
なぜ「期中の増額」は否認されるのか
役員報酬を経費として認めてもらうには、「定期同額給与」という要件を満たす必要があります。ざっくり言えば、毎月同じ金額を支払い続けることが前提のルールです。
金額を変更していいのは、原則として期首から3ヶ月以内だけです。この期間を過ぎてから増額すると、「利益が出そうだから役員報酬で調整したのでは」と見なされ、増えた分は損金不算入の扱いになります。
今回のケースでは、期首から半年後に改定していました。定期同額給与の要件からは完全に外れるタイミングです。
全部ではなく「差額」だけが否認される
誤解されがちですが、改定前の報酬まで丸ごと否認されるわけではありません。否認されるのは、あくまで改定前後の差額部分だけです。
今回の例では、月20万円の増額を8ヶ月間続けていました。20万円×8ヶ月で、差額の合計は160万円です。この160万円が、法人税の計算上は経費として認められませんでした。
法定実効税率で計算すると、追加で納めることになった税額はおよそ54万円です。しかもこの160万円は、社長個人の給与としてはすでに所得税・住民税の対象になっています。つまり同じお金に対して、法人側でも税金がかかってしまったということです。
「増やした分は自分の懐に入ったから得している」と思いがちですが、法人と個人の両方で課税されると考えると、実際の手取りベースでの得はかなり目減りします。
増やすなら「期首から3ヶ月以内」が鉄則
この社長のケースで一番もったいなかったのは、業績が良くなってから慌てて報酬を見直した点です。
期首から3ヶ月以内の改定であれば、定期同額給与の要件を満たし、増額分もきちんと経費として認められます。逆に言えば、それさえ守れば今回のような否認は起こりません。
業績の着地見込みは、期の終盤にならないと分からないと思われがちですが、実際には期首の時点である程度の予測は立てられます。決算数値が固まってから動くのではなく、期首のタイミングで前もって報酬水準を決めておくことが、結果的に一番の対策になります。
今期すでに期首から3ヶ月を過ぎてしまっている場合は、無理に今動くよりも、来期の期首に向けて準備しておくのがおすすめです。株主総会や取締役会での決議と議事録の作成も、忘れずにセットで行っておきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。