先日、製造業を営む社長からこんな連絡が来ました。
「今期、受注が想定以上に好調で、せっかくだから役員報酬を月50万円増やそうと思ってます。経理に指示しちゃいましたが、問題ないですよね?」
私は思わず画面を見つめ直しました。時期は——10月。期首から、すでに7ヶ月が経過していました。
その「増額」、全額が経費になりません
役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。聞き慣れない言葉ですが、中身はシンプルです。毎月同じ金額を支払い続けること。そして、金額は原則として事業年度の最初の3ヶ月以内に決めなければならない、というものです。
このルールを外れた部分の役員報酬は、法人の経費として認められません。税務用語で「損金不算入」と言います。
冒頭の社長のケースで計算してみましょう。10月から月50万円増額すると、残り6ヶ月で増額分は合計300万円。しかしこれが全額、損金として認められないのです。法人税率を約34%とすると、300万円 × 34% ≈ 約100万円の追加納税が発生します。
「期中に変更する」というのが問題で、もし4月(期首)から変更していれば、年間600万円が正当な経費として処理でき、約200万円以上の節税効果がありました。タイミング一つで200万円超の差が生まれるわけです。
なぜ「期首3ヶ月以内」なのか
税務当局が「期中変更NG」としている理由は、恣意的な利益調整を防ぐためです。
決算直前に「今年は利益が出そうだから役員報酬を増やして節税しよう」という操作を認めてしまうと、法人税の課税ベースが崩れます。そのため、「年度の計画として期首に決める」という縛りを設けているのです。
逆に言えば、きちんと期首3ヶ月以内に決定・改定すれば、金額を上げることも下げることも問題ありません。社長の「自分への給与」をうまく設計することは、正当な節税手法の一つです。
損金に認められる役員報酬は3種類だけ
役員報酬が損金として認められるのは、次の3パターンに限られます。
① 定期同額給与:毎月同額を支払う、もっとも一般的な形。期首3ヶ月以内の改定が原則。
② 事前確定届出給与:支払額と時期を事前に税務署へ届け出た上で支払うボーナス型。届出通りに支払わないと損金不算入になるため、運用に注意が必要です。
③ 業績連動給与:利益指標に連動して支払う報酬。上場会社向けの制度で、中小企業が活用できるケースはほぼありません。
多くの中小企業では①と②の組み合わせが実務です。期中に「やっぱり変えたい」と思っても、原則として①の改定はできないと考えておくのが安全です。
税務調査では「変更した記録」を必ずチェックされる
役員報酬は、税務調査で必ず確認される項目の一つです。調査官は過去数年の給与台帳を見て、金額が途中で変わっていないかをチェックします。
変更があれば、「なぜ変えたのか」「いつ決議したのか」と掘り下げてきます。議事録や定款で裏付けられれば問題ありませんが、「特に理由はなく、社長の指示で」という対応では損金不算入を指摘されるリスクが高まります。
もう一つ注意したいのが、役員へのインセンティブや臨時ボーナスです。「今年の頑張りへの報奨」として決算月に上乗せした場合、定期同額給与に該当せず、かつ事前の届出もなければ、全額が損金不算入になります。気持ちはわかるのですが、税務的には非常に危険な行為です。
「変えたい」と思ったら、まず時期を確認する
役員報酬を見直したいと感じた時、最初に確認すべきは「今、期首から何ヶ月目か」です。
3ヶ月以内なら改定できます。4ヶ月目以降なら、来期の期首まで待つのが原則です。どうしても対応したい事情がある場合(業績が著しく悪化した場合など)は例外規定も存在しますが、適用要件が厳しく、税理士との事前相談が必須です。
業績が好調な時こそ、「来期の役員報酬をいくらにするか」を期末前から戦略的に考えておく。それが、税金を余計に払わないための現実的な習慣です。
役員報酬の設計は、一度決めてしまうと1年間変えられない縛りがあるだけに、期初の判断が非常に重要です。今期の残り月数を確認しながら、来期の設計を今から顧問税理士と相談してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。