先日、ある社長からこんな連絡が届きました。
「今期は業績がすごく良くて、税理士から『役員報酬を上げてもいいですよ』と言われたんで、先月から月50万円増やしたんですけど……これって問題ありますか?」
結論から言うと、問題あります。しかも、かなり深刻に。
その社長は7月に報酬を増額していたのですが、このタイミングでの変更は税務上「定期同額給与」の要件を外れてしまいます。増額分の報酬は経費として認められず、法人税の課税対象になってしまうのです。
毎月「同じ金額」を払い続けることが大原則
役員報酬には、一般の従業員の給与とは異なる厳しいルールがあります。その中でも最も重要なのが「定期同額給与」という考え方です。
簡単に言うと、毎月同じ金額を継続して支払い続けた報酬だけが、法人の損金(経費)として認められるというルールです。途中で金額を変えてしまうと、変更後の増額分が損金として認められなくなります。
ここで多くの社長が引っかかるのが「変更できるタイミング」です。役員報酬を変更していいのは、原則として事業年度の開始から3ヶ月以内に限られています。3月決算の会社であれば、4月・5月・6月の間にしか変更できません。
7月以降に変えるのは、税務上アウト。この一点が、冒頭の社長の失敗を生んでいました。
「うっかり変更」の代償は100万円超えも
実際にどれくらいのダメージになるか、数字で確認しておきましょう。
仮に7月から役員報酬を月50万円増やした場合、その年度の残り9ヶ月分、つまり450万円が損金不算入になります。法人税率が約30%だとすると、追徴税額は135万円。加算税や延滞税も加われば、総額はさらに膨らみます。
「業績が良いから報酬を増やして節税しよう」という判断自体は正しいのですが、タイミングを間違えると節税どころか余計な税負担を生む結果になってしまいます。
税務調査で指摘を受けるケースも珍しくなく、期中の報酬変更は調査官に必ずチェックされるポイントのひとつです。
正しいタイミングを押さえれば、年360万円の節税も現実になる
逆に言えば、正しいタイミングで変更すれば、これほど強力な節税策はありません。
3月決算の会社を例に取ります。4月の改定で役員報酬を月100万円アップしたとしましょう。年間では1,200万円の増額です。この全額が損金として認められれば、法人税の節税効果は単純計算で約360万円になります。
手取りの増加と節税の両立ができるのが、役員報酬の強みです。ただし、この恩恵を受けるためには「4月に変更する」という意思決定を、少なくとも3月末までに固めておく必要があります。
決算を締めてから「そういえば報酬を変えようとしていた」では遅いのです。
決算の3ヶ月前から動くのが節税上手な社長の共通点
節税に強い社長ほど、決算の数字が見えてきた段階で翌期の役員報酬をどう設定するかを税理士と話し合っています。
チェックすべきポイントは大きく3つです。
- 今期の着地利益はいくらになりそうか
- 来期の業績見通しと、必要な手元資金はどうか
- 社会保険料の増加も含めたトータルコストを試算しているか
役員報酬を上げると法人税は下がりますが、その分だけ社長個人の所得税・住民税と社会保険料が増えます。単純に「報酬を最大化すれば節税になる」というわけではなく、法人と個人の税負担のバランスを見ながら最適な金額を設定することが重要です。
この計算は一人でやろうとすると複雑になりがちなので、数字を持って顧問税理士に相談するのが確実です。
まず「自分の決算月」と「変更期限」を今日確認してほしい
定期同額給与のルールは、知っているか知らないかだけで年間の税負担が数百万円変わることがあります。そして怖いのは、「知らないまま変更してしまった」ケースでは、あとから取り返しがつかない点です。
今すぐやってほしいことは一つだけです。自社の決算月を確認して、役員報酬を変更できる期限がいつまでかを把握する。それだけで、少なくとも「うっかりアウト」は防げます。
来期の報酬設定を戦略的に考えたいなら、決算の2〜3ヶ月前には税理士と話し合いを始めてください。そのひと手間が、年間数百万円の差になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。