先日、年商4億円の製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。

「顧問税理士に言われるまま役員報酬を1500万円にしているんですが、これって正解なんでしょうか」

結論から言うと、多くの中小法人オーナーの役員報酬は、感覚や「去年もこの額だったから」という惰性で決められています。そして体感ベースで見ると、そのうちの8割ほどは、税金面で見て最適とは言えない水準に落ち着いているように感じます。

給与所得控除には天井がある

まず押さえておきたいのが、給与所得控除の仕組みです。役員報酬は「給与」として受け取る以上、給与所得控除という経費のようなものが自動的に差し引かれます。

ところがこの控除、年収が上がるほど青天井に増えるわけではありません。年収850万円を超えると、控除額は195万円で頭打ちになります。

つまり役員報酬を1500万円にしても2000万円にしても、給与所得控除という「節税の恩恵」は195万円分しか受けられないということです。報酬を増やせば増やすほど、その効果は薄まっていきます。

法人と個人、どちらで税金を払うか

役員報酬を上げると、法人の利益はその分減ります。中小法人の実効税率は、おおよそ33.6%が目安です。

一方、個人の所得税・住民税は累進課税なので、所得が上がるほど税率も上がっていきます。課税所得900万円を超えたあたりから、所得税と住民税を合わせた税率は43%に達します。

ここが重要なポイントです。法人側で33.6%の税金を払うのと、個人側で43%の税金を払うのとでは、同じ1円でも手元に残る金額が変わってきます。役員報酬を上げすぎると、法人税より高い税率で個人課税されることになり、トータルの税負担はむしろ重くなってしまうのです。

1000万円前後が一つの目安になる理由

給与所得控除が頭打ちになる水準と、個人の税率が重くなり始める水準を重ね合わせると、役員報酬1000万円前後に一つの分岐点が見えてきます。

これより低い水準だと、法人に利益を残しすぎて法人税の負担が重くなりがちです。逆にこれより大きく超えていくと、今度は個人の所得税・住民税の累進負担が重くのしかかってきます。

もちろん、これはあくまで目安です。社会保険料の負担、退職金の設計、家族への報酬分散、法人に残したい利益の使い道など、考慮すべき要素は他にもたくさんあります。実際には会社ごとの利益水準や今後の投資計画によって、最適点は上にも下にもずれます。

まずは「今の額」を疑ってみる

私が相談を受けるとき、最初にお願いするのは「なぜ今の役員報酬なんですか」という問いへの答えです。多くの場合、明確な根拠を持って答えられる社長は多くありません。

前年の踏襲、なんとなくの相場感、あるいは資金繰りの都合。それ自体が悪いわけではありませんが、法人と個人の税率のバランスを一度シミュレーションしてみるだけで、年間で数十万円単位の差が生まれることも珍しくありません。

まだ一度も役員報酬の水準を数字で検証したことがないなら、次の決算を待たずに、一度シミュレーションしてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。