先日、顧問先の製造業の社長からこんな相談を受けました。「今期、思い切って社員全員の給料を3%上げたんです。人手不足で辞められたら困るので。でもこれ、会社にとってはただのコスト増ですよね」。

実はそうとも言い切れません。従業員の給与を前年より増やした会社には、税金を直接減らせる制度が用意されています。それが賃上げ促進税制です。

効き方が大きいのは「税額控除」だから

この制度のポイントは、給与を増やした分がそのまま経費として認められる「所得控除」ではなく、法人税そのものから差し引ける「税額控除」だという点です。

所得控除は課税所得を減らすだけなので、実際に浮く税金は税率をかけた分にとどまります。一方の税額控除は、計算された法人税額から直接マイナスするので、同じ増加額でも手元に残るお金へのインパクトがまったく違います。

先ほどの社長のケースで言えば、給与を増やしたことによる人件費の増加はもちろん実質負担として残りますが、その一部を法人税の減少というかたちで取り戻せる、というイメージです。

控除率は「増加率」でランクが変わる

中小企業の場合、継続して雇用している従業員への給与等支給額を前年度と比べてどれだけ増やしたかで、控除率が段階的に上がっていく設計になっています。

おおまかな考え方としては、

  • 一定水準以上の増加率をクリアすると、増加額の15%前後を税額控除
  • さらに高い増加率を達成すると、控除率が30%前後まで上乗せ
  • 教育訓練費を一定以上増やしていたり、子育てとの両立支援に関する認定を受けていたりすると、さらに数%〜10%程度が上乗せ

という多段階の仕組みです。要件を満たせば満たすほど控除率が積み上がっていくため、「うちは対象外だろう」と決めつけずに、自社の増加率が今年どのランクに当たるのかを一度計算してみる価値はあります。

なお、控除できる金額には法人税額の一定割合という上限があり、その年に控除しきれなかった分を翌年以降に繰り越せる仕組みも用意されています。使い切れなかったからといって、その年の恩恵がすべて消えてしまうわけではありません。

適用には「その年の要件」の確認が必須

ここで一番注意したいのが、控除率や上限、繰越の可否といった細かい条件は税制改正のたびに見直されているという点です。

数年前の情報のまま「うちは対象外」と判断してしまうと、本来受けられたはずの控除を取りこぼすことになりかねません。逆に古い基準のまま高い控除率を見込んで試算してしまうのも危険です。

先ほどの社長にも、まずは今期の継続雇用者給与等支給額を前年度分と並べて集計するところから始めましょう、とお伝えしました。増加率が算出できれば、どのランクの控除率が当てはまりそうか、申告前にかなり具体的な話ができるようになります。

賃上げは人材確保のための投資であると同時に、条件を満たせば税額控除という形で一部が返ってくる制度でもあります。今期すでに給与を増やしているなら、決算の前に一度、対象になるかどうかを確認しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。