先日、ある製造業の社長と食事をしていたときのことです。「うちは毎年ちゃんと税理士に任せてるから大丈夫」とおっしゃっていたのですが、賃上げ促進税制の話を持ち出したら「それ、何ですか?」と。顧問税理士から一度も話が出たことがなかったそうです。
税制改正は毎年行われていますが、2026年度の改正は中小企業の経営者にとって特に見逃せない内容が揃っています。知っているかどうかだけで、来期の手残りが数百万円単位で変わってくる可能性があります。今日はそのなかでも特に押さえておきたい3つのポイントをお伝えします。
15%の軽減税率、まだ使えます
法人税の税率は、原則として23.2%です。ただし中小企業には特例があって、年間800万円以下の所得部分については15%の軽減税率が適用されます。この優遇措置、今回の改正で延長が正式に決まりました。
「知ってる」と思った方、少し待ってください。問題は「知っているかどうか」ではなく、「ちゃんと活用できているか」です。たとえば所得が800万円ちょうどの会社なら、通常税率との差は8.2ポイント。それだけで約65万円の差が生まれます。決算直前に利益を調整する余地があるかどうか、顧問税理士と事前に確認しておくだけで結果が変わります。
延長されたとはいえ、永続的な制度ではありません。「あるうちに使う」という意識が大切です。
給与を上げるほど税金が減る仕組み
賃上げ促進税制は、簡単に言うと「社員の給料を増やした会社に、税金を直接割り引きます」という制度です。前年と比べて給与総額を3%以上引き上げると、増加した金額の最大35%が法人税額から直接差し引かれます。税率を下げるのではなく、税額そのものをマイナスするので、インパクトが大きい。
年商5億円規模の会社を例にすると、給与総額が1億円だとして3%増やせば300万円の増加です。その35%、つまり105万円がそのまま法人税から消える計算になります。「賃上げにはコストがかかる」という感覚だけで敬遠するのは、実はもったいないことなんです。
注意点として、適用要件は企業規模や増加率によって細かく変わります。また、「給与総額の増加」には役員報酬は含まれないなど、計算方法に落とし穴があります。「うちは給料上げてるから当然使えるはず」と思い込まず、必ず事前に確認しておきましょう。
30万円未満の備品、今のうちに買うべきか
中小企業には、30万円未満の備品や設備を購入したとき、その全額をその年の経費として落とせる特例があります。通常であれば数年かけて減価償却するところを、一気に経費化できるので、利益が出ている年に使うと節税効果が高い。
この特例の要件が、2026年度改正で見直される可能性が出ています。現時点では具体的な変更内容が確定していない部分もありますが、「使えなくなるかもしれない」と想定したうえで動くのが賢明です。パソコンやタブレット、業務用ソフトウェア、オフィス家具など、そろそろ買い替えを検討していたものがあれば、今期中に購入を済ませる選択肢を検討してみてください。
ただし「節税のために不要なものを買う」のは本末転倒です。あくまで「どうせ買うなら今のうちに」という判断軸で動くのが正解です。
税制改正は「知った瞬間」がスタートライン
税制改正の情報は、調べようとしなければなかなか目に入ってきません。顧問税理士が積極的に情報提供してくれる場合はいいのですが、残念ながらすべての事務所がそうとは限らない。経営者側からも「最近の改正で使えそうなものはありますか?」と聞く姿勢が、長い目で見ると大きな差になります。
今回紹介した3つのポイントを、次の顧問税理士との打ち合わせで話題にしてみてください。「うちの場合、どれが使えますか?」のひと言から、思わぬ節税が見つかることがあります。改正の波は待ってくれません。知った今が、動くタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。