先日、事業を継いだばかりの後継社長から、こんな相談を受けました。
「創業メンバーの役員に、業績が良かった年だけ賞与を出したいんです。でも役員賞与って経費にならないと聞いて、諦めるしかないのかなと」
結論から言うと、諦める必要はありません。事前確定届出給与という制度を使えば、役員賞与も損金にできます。ただし、そのハードルは想像以上に高いものです。
なぜ役員賞与は経費にならないのか
そもそも役員報酬は、毎月同じ金額を支払う「定期同額給与」が原則です。これは、業績が良い年だけ役員に多く払って利益を圧縮する、いわゆる利益調整を防ぐための仕組みです。
この原則があるせいで、従業員には出せる賞与も、役員に対しては経費として認められません。せっかく会社に貢献してくれた役員に報いたくても、税務上は壁があるわけです。
事前確定届出給与という抜け道
そこで用意されているのが、事前確定届出給与という制度です。仕組みはシンプルで、「いつ・いくら支払うか」をあらかじめ税務署に届け出ておき、その通りに支給すれば、賞与であっても損金算入が認められます。
届出の期限は、株主総会などで役員報酬を決議した日から1ヶ月以内、または会計期間が始まってから4ヶ月以内、どちらか早い方です。新しく設立した法人の場合は、設立から2ヶ月以内という別ルールもあります。
実際の運用イメージはこうです。決算月が3月の会社が、6月の株主総会で「12月25日に役員Aへ200万円の賞与を支給する」と決議したとします。この場合、決議日から1ヶ月以内、つまり7月中に税務署へ届出書を提出しておけば、12月25日に200万円を支払った際、全額を損金にできます。
1円・1日のズレも許されない
ここが最大の注意点です。事前確定届出給与は、届け出た通りに支払うことが絶対条件です。
先ほどの例で言えば、資金繰りの都合で支給日が12月26日に1日ずれただけでも、あるいは金額が199万9,999円に1円足りないだけでも、その支給額は全額が損金不算入になります。一部だけが否認されるのではなく、全額です。
業績が予想より悪化して「今回は減額したい」と考えるケースもよくありますが、これも原則として認められません。減額すると、届出通りに支払っていないという理由で、やはり全額が経費として認められなくなってしまいます。
実務で気をつけたいこと
この制度を使う上で、私が顧問先によく伝えているポイントは次の3つです。
- 支給日は振込の着金日で判定されるため、金融機関の休業日や振込タイミングに余裕を持たせておく
- 資金繰りが厳しくなりそうな年は、そもそも届出を出す金額を控えめに設定しておく
- 届出書の控えと支給記録は、税務調査に備えて必ず保管しておく
特に資金繰りは見落としがちです。決算が良い時期に強気な金額を届け出て、いざ支給時期に資金がショートしていた、という相談は実際に何件も見てきました。届出時点では「出せるはず」でも、半年後の景気や受注状況までは読み切れないものです。
役員への賞与は、モチベーションや会社への貢献意欲に直結する大事な仕組みです。まだ制度を使ったことがないなら、次の株主総会のタイミングで、金額に少し余裕を持たせた形での導入を検討してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。