先日、工務店を経営する社長とお話しする機会がありました。

「うちの会社、役員賞与は経費にならないって聞いてから、もう10年以上ずっと諦めてるんです」

そう言って苦笑いされていたのが印象に残っています。

じつはこの「役員賞与は経費にならない」というのは、半分正解で半分間違いなんです。

役員賞与が経費になる条件がある

正確に言うと、役員賞与は「通常の方法では損金にならない」が正しい表現です。

ところが、「事前確定届出給与」という制度を使えば、役員賞与であっても全額を損金算入できるようになります。

ざっくり言うと、「この期は何月何日にいくら払います」と事前に税務署へ届け出て、その通りに支払えばOKという仕組みです。難しい手続きは特になく、書類を1枚提出するだけです。

届け出るだけで税負担が大きく変わる

話を戻しましょう。その工務店の社長、年商は約2億円で、会社の利益は毎年それなりに出ている状態でした。

「役員賞与を出したいけど、どうせ経費にならないから」という理由で、賞与を年500万円に抑えてきた。それを10年間続けていたわけです。

仮に500万円の賞与が全額損金になっていたとしたら、法人税率をおよそ30%で計算すると、年間150万円の節税効果があります。10年間で1,500万円です。

もちろん個人側の所得税も絡むので単純計算はできませんが、「制度を知っているか知らないか」の差がどれほど大きいか、わかっていただけると思います。

手続きの流れと注意点

事前確定届出給与の届け出は、原則として以下のタイミングで行います。

  • 事業年度開始から4ヶ月以内
  • 株主総会などで役員報酬を決議した日から1ヶ月以内 (どちらか早い方が期限になります)

届け出書類自体は複雑ではなく、税務署の窓口かe-Taxで提出できます。書き方に不安があれば、顧問税理士に依頼するのが確実です。

重要なのは「届け出た通りに払う」ことです。

届出書に「6月と12月にそれぞれ500万円」と書いたなら、その通りに支払わなければなりません。金額がずれたり、支払日がずれたりすると、損金算入が認められなくなります。この点は厳格なので要注意です。

役員賞与を増額するという選択肢

その工務店の社長、翌年から制度を活用して、賞与を1,000万円に引き上げました。

「これまでの10年、何をやってたんでしょうね」と笑っていましたが、知らなかっただけで、制度は最初からあったわけです。

賞与を損金にするメリットは大きく2つあります。

  • 法人税の節税: 賞与分だけ会社の利益が減り、法人税が下がる
  • 社長個人の手取りを増やせる: 毎月の役員報酬では出しにくい大きな金額を、賞与として設計できる

ただし個人側での所得税・住民税も増えるため、「いくら設定するのが最適か」は会社の利益水準や社長の他の収入、家族構成によっても変わります。

決算が近づく前に動く

事前確定届出給与は、事業年度が始まってから届け出る必要があります。

3月決算の会社なら4月から翌年3月が1事業年度なので、届け出の期限は7月末ごろになります。「そろそろ届け出たい」と思ったときには、すでに期限を過ぎているというケースも珍しくありません。

来期から活用したいなら、今のタイミングで顧問税理士に相談しておくのが賢明です。まだ一度も事前確定届出給与を使ったことがないなら、早い段階で動いておくことをお勧めします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。