先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「家賃収入が毎年1,000万円以上あるのに、手元に残るお金がびっくりするほど少ない。何かおかしいと思って」と。

税務資料を拝見すると、案の定でした。不動産をすべて個人名義で持ち続けていたのです。

個人で持つと、半分以上が税金に消える

日本の所得税は累進課税で、所得が上がるほど税率が跳ね上がります。一定の所得水準を超えると、所得税45%+住民税10%の合計55%という最高税率の世界に突入します。

年間1,000万円の家賃収入があって、必要経費を引いた後の課税所得が高水準であれば、税負担は500万円を超えることも珍しくありません。「自分の財産から得た収入なのに、半分以上が税金に消えていく」という感覚、正直しんどいですよね。

この構造を知らないまま、個人で不動産を持ち続けている社長が実は多いのです。

法人に移すと、税率が一気に変わる

同じ不動産を、個人ではなく法人(会社)で保有するとどうなるか。

中小法人の法人税率は、所得800万円以下の部分に対して15%。地方税を含めた実効税率は約23%になります。個人の最高税率55%と比べると、半分以下です。

年間1,000万円の家賃収入が法人に入り、実効税率23%が適用されれば、税負担は約230万円。個人での税負担との差額は約320万円。これが毎年積み重なります。5年で1,600万円、10年で3,200万円。決して小さな差ではありません。

法人化で経費の幅も広がる

税率の差だけではありません。法人にすることで、経費計上できる範囲も変わってきます。

修繕費・管理費・清掃費などの物件維持コスト、ローンの借入利息、法人として雇用した役員や従業員への給与。個人でも必要経費は認められますが、法人の方が計上の柔軟性が高く、課税所得を圧縮しやすい構造になっています。税率の低減と経費拡大の両方が重なることで、節税効果はさらに大きくなります。

「じゃあ今すぐ法人化」とはいかない理由

ただし、すべての人に不動産法人化が最適解というわけではありません。

個人から法人への不動産移転には、不動産取得税や登録免許税が発生します。移転コストが数百万円になることもあり、「何年で元が取れるか」をしっかり試算する必要があります。既存ローンがある場合、銀行の合意を得て法人へ引き継ぐ手続きも必要で、設立したばかりの法人では融資を引き継げないケースもあります。

さらに法人には毎年の決算・申告コスト(税理士報酬、法人住民税の均等割など)がかかります。保有規模が小さければ、コストが節税効果を上回ることもあります。

これから買う不動産は、法人名義で

注目すべきは、これから新たに不動産を取得する場合です。最初から法人名義で購入すれば、移転コストはかかりません。

法人で不動産を取得し、そこから家賃収入を得る。余剰利益を役員報酬として受け取るか、法人内に留保して次の投資に回すか。戦略の選択肢が一気に広がります。「まだ個人名義でしか不動産を持ったことがない」という社長は、次の一棟を法人で買うことを検討してみてください。それだけで税の世界が変わってきます。

税率の差、経費の幅、長期的な資産形成への影響。一度、自社の状況に合わせて税理士と試算することを強くおすすめします。年間320万円の差が10年続けば、それは次の投資の原資になり、不動産オーナーとしての加速が明らかに変わってくるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。