先日、地方都市でマンション経営をしている資産家の社長からこんな相談を受けました。「1億円の物件を持っているんだけど、家賃収入の半分近くが税金で消えていく感覚がある。何か対策はあるか?」
聞いてみると、その物件は完全に個人名義。年間家賃収入が500万円あるものの、所得税と住民税を合わせると実質的な税率は50%近くになっていました。
1年で250万円が税金として消える計算です。5年で1,250万円、10年で2,500万円——気の遠くなる話ですが、これが個人名義で不動産を持ち続けるコストの現実です。
個人名義の「見えないコスト」
日本の所得税は累進課税です。課税所得が4,000万円を超えると最高税率45%、住民税10%を合わせると合計55%という水準になります。
給与収入もある社長の場合、不動産収入が上乗せされて一気に高い税率ゾーンに突入するケースは珍しくありません。年間500万円の家賃収入があっても、手元に残るのは200万〜250万円——というのが、個人名義運用の実態です。
「苦労して管理しているのに、半分以上税金に持っていかれるのか」という不満は、まったく正当です。そしてこれは、法人化というアプローチで大きく変えられます。
法人にすると何が変わるか
法人で不動産を保有すると、収益に課せられるのは所得税ではなく法人税です。現在の実効税率は中小企業で約23〜25%程度。個人の55%と比べると、単純計算で約30ポイントの差があります。
先ほどの例で試算してみます。年間家賃収入500万円、必要経費を差し引いた課税所得が400万円とした場合——個人名義なら税額はおよそ180〜200万円。法人化すれば同じ所得に対する税額は90〜100万円程度です。
差額は年間80〜100万円。10年で800万〜1,000万円の差になります。
さらに、法人化の本当のうまみは「所得の分散」にあります。配偶者や子どもを役員として法人に加え、適切な役員報酬を支払うことで、1人に集中した高い税率を複数人の低い税率に分けることができます。これが「所得分散節税」と呼ばれる手法で、法人活用の核心部分です。
法人化の2つのルート
不動産の法人化には、主に2つのアプローチがあります。
ひとつ目は「建物だけを法人へ移す」方法です。土地は個人が所有したまま、建物のみを法人に売却または現物出資します。不動産取得税や登録免許税のコストを抑えつつ、賃料収入を法人に移せるのがメリットです。法人は土地の賃借料を個人に支払う仕組みになります。
ふたつ目は「土地・建物を丸ごと法人へ移す」方法。節税効果は最大化できますが、移転コストが大きい。不動産取得税・登録免許税・場合によっては譲渡所得税も発生するため、長期的な節税効果との費用対効果を丁寧に計算する必要があります。
どちらが適しているかは、物件の価値・ローン残高・家族構成・将来の相続設計によって変わります。「とりあえず法人にすればいい」という話ではなく、全体の資産設計の中で最適解を探すのが正しいアプローチです。
見落としがちな3つの注意点
法人化には移転コストがかかります。不動産取得税(評価額の3〜4%)、登録免許税(固定資産税評価額の2%)、司法書士への報酬など、数十万〜百数十万円の初期費用を想定してください。
また、法人設立後は毎年の申告・記帳・役員報酬の設定など、個人に比べて管理コストが上がります。税理士報酬も増えることを念頭に置いてください。節税効果が年間80〜100万円でも、これらのコストを差し引いて考えることが大切です。
さらに見落とされがちなのが融資の問題です。物件にローンが残っている場合、金融機関の同意なく法人へ移転することは契約違反になる可能性があります。移転を検討する前に、必ず金融機関への確認を先に行ってください。
「今すぐ動く」より「今すぐ相談する」
不動産法人化は、一度動き始めると簡単には引き返せません。だからこそ、「何となく節税になりそう」で走り出すのではなく、まず数字ベースで確認することが重要です。
具体的には、①現在の個人税負担と法人化後の比較シミュレーション、②移転コストの概算、③法人設立後の毎年の管理費用——この3点を税理士に出してもらうだけで、やるべきかどうかの判断はかなり見えてきます。
不動産をお持ちで「そういえば法人化を検討したことがなかった」という社長は、今期の決算前に一度相談してみることをお勧めします。特に給与や事業所得が高く、個人の税率が高くなっている方ほど、効果は大きく出ます。
1億円の不動産が生み出す収益を、税金で半分以上持っていかれるのか、それとも手元に残せる仕組みを作るのか——その選択肢は、今のあなたの手の中にあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。