先日、ある社長からこんな連絡が届きました。「今期は利益が出すぎてしまって。役員報酬を下げたほうがいいですかね?」
思わず「ちょっと待ってください」と声に出してしまいました。
役員報酬を下げれば個人の所得税は確かに減ります。でも、その分だけ法人の利益が増え、法人税がドンと上がるという落とし穴が待っています。組み合わせによっては、節税どころか年間180万円以上の「追加納税」を自ら招いてしまうことになるのです。
「利益が出すぎた」から報酬を下げる、は危険
決算が近づいてきた時期に「今期は調子が良かった。役員報酬を下げて法人に利益を残しておこう」という発想をされる社長は少なくありません。
気持ちはわかります。でも、この発想には大きな誤解が含まれています。
役員報酬を下げると、その分だけ法人の課税所得が増えます。法人税には「課税所得800万円を超える部分には税率23.2%が適用される」というルールがあります。
たとえば月65万円、報酬を下げたとしましょう。年間で780万円が法人に残ります。この780万円にざっくり23.2%がかかると、法人税の増加分は約180万円。これが丸ごと追加の税負担になるわけです。
個人の所得税が減っても、差し引きでは損
「でも、個人の所得税が減るんじゃないの?」という声が聞こえてきそうです。
もちろん、報酬を下げれば個人の課税所得は減り、所得税・住民税の負担も軽くなります。ここは正しい。
問題は「どちらの税率が高いか」という比較です。個人の所得税率は、課税所得が少なければ5〜20%程度。一方、法人税率は800万円超の部分に23.2%が課されます。
個人の限界税率が法人税率を下回っているケースでは、報酬を下げても個人の節税効果より法人の増税分のほうが大きくなってしまいます。「節税のつもり」が、実は追加納税を生んでいる。こういう事態が、中小企業の現場では珍しくないのです。
適正な役員報酬を決める3つの基準
では、役員報酬はどう決めるべきか。経験上、以下の3点を整理することが出発点になります。
① 法人の利益水準 800万円の壁を意識しながら、法人に残す利益と個人に出す報酬のバランスを見ます。どちらに多く残すかで、実質的な税負担がまったく変わります。
② 社会保険料の負担感 役員報酬が高ければ高いほど、健康保険・厚生年金の保険料も上がります。法人と個人の両方に跳ね返ってくるコストなので、見逃すと計算が大きくズレます。
③ 個人の実効税率 所得税・住民税の限界税率を正確に把握した上で、法人税率との比較を行います。このバランスポイントが「最適な報酬水準」の核心です。
この3つを組み合わせて、はじめて答えが出てきます。感覚や雰囲気で変えるのはリスクが高い。
「今期の利益」だけで判断しないで
もう一つ注意してほしいのが、役員報酬は期中に変更できないというルールです。
原則として、役員報酬は事業年度開始から3ヶ月以内に決定し、その後は原則変更できません(定期同額給与の原則)。途中で変更すると、変更後の差額が損金算入できなくなります。
つまり「利益が出過ぎたから決算前に下げる」という発想は、タイミングの面でもそもそも難しい。報酬設計は決算後すぐ、新年度の初めに腰を据えて考えるのが鉄則です。
決算が近づいてから焦るのではなく、来期の計画を立てるタイミングで税理士と一緒にシミュレーションをしておく。これが、合法的な節税への一番の近道です。
「なんとなく」で役員報酬を決めてきた方は、一度きちんと数字を並べて見直してみてください。数字を揃えてみると、意外なところに改善の余地が見つかることが多いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。