先日、年商3億円の建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。
「報酬を上げるか据え置くか、毎年悩むんですよね。税理士には『今のままでいいと思います』って言われるんですが、なんとなく腑に落ちなくて」
この感覚、実はとても正しいと思います。「なんとなく決めている」役員報酬には、見えないところで確実に税金が漏れているケースが多いからです。
今回は、役員報酬が「損か得か」を自分でチェックできる3つの判定基準をお伝えします。
基準③:所得税のブラケットを超えていないか
まず最初に確認したいのが、所得税の税率区分(ブラケット)です。
課税所得が900万円を超えると、所得税率は33%に跳ね上がります。そこに住民税10%を合算すると、実に43%が税金として消えていく計算になります。稼いだお金の半分近くが税金というのは、かなり重い負担です。
役員報酬は期中に変更できませんが、期首の設定時点でこのブラケットを意識しているかどうかで、年間数十万円の差が出ることもあります。自分の給与所得控除後の課税所得が900万円に近いところにあるなら、報酬額の調整を真剣に検討する価値があります。
基準②:社会保険料の「上限」を使い切っているか
次に確認したいのが、社会保険料の上限ラインです。
厚生年金保険料には、標準報酬月額65万円という上限が設定されています。月給が65万円を超えても、厚生年金の保険料はそれ以上増えません。つまり、65万円の壁を超えた分の報酬には、厚生年金保険料がかからないのです。
これは意外と知られていない事実で、「社会保険料が高いから報酬を低く抑えている」という社長ほど損をしています。一定の水準を超えたら、社会保険料の観点では報酬を高めに設定するメリットが生まれるのです。
もちろん、健康保険料の上限は別に設定されていますし、個人の手取りと法人の経費バランスも考える必要があります。ただ、「社保が怖いから低めに」という思い込みで判断しているなら、一度試算し直してみてください。
基準①:法人と個人、どちらに残すほうが得か(最重要)
この3つのなかで、最も多くの社長が見落としているのがこの「逆転点」の問題です。
法人所得が800万円以下の中小企業には、法人税の軽減税率が適用されます。実効税率に換算すると、おおよそ22%前後に収まります。
一方、個人の役員報酬が増えていくと、所得税・住民税・社会保険料の合算負担はどんどん重くなります。年収ベースで一定の水準を超えると、個人の合算負担率が45%を超えてくる場合があります。
法人に22%で留保するか、個人に引き出して45%以上を負担するか。この逆転ポイントを把握していない社長は、本来なら法人に残すべきお金を個人に引き出して、余分に税金を払っています。
もちろん、法人に留保しっぱなしでは個人の生活費が賄えませんし、将来の出口戦略(M&AやIPOなど)によっても最適解は変わります。ただ、逆転点を「知っているか知らないか」だけで、毎年の税負担は大きく変わります。
3つの基準で、今すぐチェックを
整理すると、確認すべきポイントは次の3つです。
- 課税所得が900万円のブラケットを無駄に超えていないか
- 標準報酬月額65万円の上限を正しく理解して報酬を設計しているか
- 法人留保と個人報酬の実効税率の逆転点を把握しているか
これらは、毎年の定時株主総会で役員報酬を決議する前に、必ず確認しておきたい項目です。
「うちの税理士に任せてあるから大丈夫」という方も、一度「逆転点はどこですか?」と聞いてみてください。明確な答えが返ってくるかどうかが、税理士との連携が機能しているかどうかのひとつの目安になります。
役員報酬の最適化は、節税の基本中の基本でありながら、意外と後回しにされがちなテーマです。今期の決算が近づいているなら、来期の報酬設計を今から考えておくのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。