先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「役員報酬って、毎年なんとなく前期と同じにしてるんだけど、これって問題ある?」と。\n\n決算書を見せてもらうと、役員報酬がかなり高めに設定されていて、所得税と社会保険料がずいぶんな負担になっていました。「もしかして、毎年100万円単位で損してるかもしれませんよ」と伝えたら、社長の顔色が変わりました。\n\n## 役員報酬には「スイートスポット」がある\n\n役員報酬を設定するとき、多くの社長は「できるだけ多くもらいたい」か「できるだけ会社に残したい」のどちらかに偏りがちです。でも、実はどちらも正解ではありません。\n\n高すぎても低すぎても税負担が増える、そんな「最適な水準」が存在します。そのポイントを知らずに設定しているだけで、毎年大きなお金が消えていくことになるのです。\n\n## 所得税43%と法人税28%、どちらに払うかの問題\n\n役員報酬を上げると、個人の所得税と社会保険料が増えます。一方、役員報酬を下げると、会社に利益が残って法人税がかかります。\n\nこの「個人の税率」と「法人の実効税率」が釣り合う水準こそ、最適額を考えるうえでの鍵になります。\n\n所得税の税率は課税所得によって変わります。課税所得が900万円を超えると、限界税率は33%に跳ね上がります。ここに住民税10%を加えると、合計43%。稼いだお金の4割以上が税金として消える計算です。\n\n一方、法人実効税率は会社の規模にもよりますが、だいたい22〜34%の範囲に収まります。\n\n仮に個人の限界税率が43%、法人税率が28%だとすると、その差は15%以上。役員報酬を1,000万円余分にもらっていたとすれば、差額だけで150万円近い「余分な税金」を払っていることになります。年100万円の損失というのは、決して大げさな話ではないのです。\n\n## 「低すぎ」にも意外な落とし穴がある\n\n「じゃあ役員報酬を下げれば節税になるんじゃ?」と思われた方、それもシンプルには正解とは言えません。\n\n役員報酬を下げると個人の税負担は減りますが、会社の利益が増えて法人税がかかります。また、役員報酬が低いと社会保険料が減る半面、将来受け取れる厚生年金も少なくなります。老後の収入設計まで含めて考えると、単純に「低いほどいい」とは言えないのです。\n\nさらに、役員報酬が低いと住宅ローン審査や個人信用に影響することもあります。「節税のために低く設定した」結果、融資で苦労するケースも実際にあります。\n\n## 変更できるのは期首から3ヶ月以内だけ\n\n役員報酬には、税務上の重要なルールがあります。\n\n事業年度開始から3ヶ月以内に決定すること。この「定期同額給与」のルールを外れると、変更分が損金(経費)として認められなくなります。\n\nつまり、今期の役員報酬を一度決めたら、原則として1年間は変更できません。決算が近づいてから「もう少し下げておけばよかった」と後悔しても、手遅れです。このタイミングの制約があるからこそ、期首のうちにしっかりシミュレーションしておくことが重要になります。\n\n## 最適額を考えるための視点\n\n自分でざっくり目安をつけるなら、こんな流れで考えてみてください。\n\nまず、役員報酬を変えたときに会社にいくら利益が残るかを把握します。次に、その利益にかかる法人税率と、個人の限界税率(所得税+住民税)を比べます。個人の限界税率が法人税率を大きく上回っているなら、役員報酬を下げて会社に利益を残す方向が有利です。逆なら役員報酬を上げる余地があります。\n\nただし、給与所得控除や各種控除、社会保険料の計算が絡むため、実際のシミュレーションは税理士に依頼するのが確実です。「今の設定が最適かどうか確認してほしい」と一言伝えるだけで、試算してもらえます。\n\n## 今期の設定、一度見直す価値があります\n\n役員報酬の最適化は、複雑な節税スキームでも裏技でもありません。「適正な水準を把握して設定する」というシンプルな話です。それだけで年間100万円単位の差が生まれることがある、地味だけど効果の大きな取り組みです。\n\n「なんとなく前期と同じにした」という社長こそ、今期の期首のうちに一度シミュレーションを依頼してみてください。3ヶ月という期限があるぶん、早めに動くほど選択肢が広がります。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。
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