先日、ある製造業の社長からこんな連絡が来ました。\n\n「夏に役員賞与として100万円を出したのに、手取りが60万円を切っていた。計算が間違っているんじゃないか?」\n\n残念ながら、間違っていません。これは役員が陥りやすい、しかし知ってしまえば防げる”賞与の二重の罠”です。\n\n## 賞与100万円の実態:手取りはいくら?\n\nまず、所得税の話から始めましょう。\n\n役員も従業員も同じですが、賞与への所得税率は高くなりがちです。前月の給与をベースに計算される賞与の源泉徴収率は、年収規模によって異なりますが、役員クラスの収入帯では実効税率が30%を超えることも珍しくありません。\n\n100万円の賞与なら、所得税だけで30万円前後が天引きされます。\n\nさらに、見落としがちなのが社会保険料です。賞与にも健康保険・厚生年金の保険料がかかり、本人負担分だけで約15%。つまり15万円前後がここでも消えます。\n\n合計すると、所得税と社会保険料で45%近くが引かれる計算になります。手元に残るのは55万円前後——場合によっては60万円を切ることもあります。\n\nこれが「賞与100万円、手取り60万円以下」の実態です。\n\n## もう一つの罠:法人税も節税できない\n\n実は、役員賞与には所得税・社会保険料の問題とは別に、もっと深刻な落とし穴があります。\n\n従業員への賞与は、支払った期の経費として法人税の計算上も損金になります。ところが役員への賞与は原則として損金不算入、つまり法人の経費として認められません。\n\n例外として認められるのが「事前確定届出給与」という仕組みです。賞与を支給する前に「○月○日に○円支払います」と税務署へ届け出ることで、はじめて損金として認められる制度です。\n\nこの届出を出し忘れると、どうなるか。\n\n社長の手取りは減るのに、会社の法人税は1円も節税できない。二重に損をする最悪のパターンに陥ります。\n\nしかも、事前確定届出の提出期限は「株主総会等で決議した日」または「その職務の執行を開始する日」のいずれか早い日から1ヶ月以内。期が始まってからバタバタ動いても、間に合わないケースがあります。\n\n## 対策は「年度の最初」に決める\n\nではどうすればいいか。答えはシンプルです。\n\n役員報酬の金額と支払いスケジュールは、事業年度の最初に設計する。これに尽きます。\n\n毎月支払う役員報酬(定期同額給与)と、賞与として支払う事前確定届出給与を組み合わせることで、個人の手取りを最大化しながら、法人側でも経費として落とせる設計が可能になります。\n\nたとえば、毎月の役員報酬を抑えめに設定しつつ、業績が良かった期に賞与を上乗せする形にすれば、社会保険料の負担を抑えながら弾力的な報酬設計ができます。ただし、この設計は「届出通りに支払う」という厳守が条件です。金額を1円でも変えると、損金算入が認められなくなります。\n\n## 今すぐ確認したい3つのこと\n\n自社の報酬設計を見直すとき、最低限チェックしてほしいことが3つあります。\n\n- 事前確定届出給与の届出を提出しているか(していなければ、今期の賞与は損金不算入)\n- 届け出た金額と実際の支払い額が一致しているか(1円のズレも許されない)\n- 次期の報酬設計は期首に決まっているか(後からの変更は原則不可)\n\nこれを放置したまま賞与シーズンを迎えると、毎年同じミスを繰り返すことになります。\n\n---\n\n社長の時間は貴重です。賞与の手続きを税理士に任せっきりにしているケースは多いのですが、仕組みを理解した上で任せるのと、丸投げとでは結果が変わります。\n\nまだ事前確定届出給与の仕組みをきちんと確認していないなら、次の顧問税理士との面談で必ず話題に出してみてください。今期間に合わなくても、来期から設計を整えるだけで、手取りも法人税も大きく変わります。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。