先日、年商3億円ほどの設備工事会社を経営するKさんから、こんな相談をいただきました。

「役員報酬を2,000万円に設定したら、手取りが思ったより全然増えなかった。税金と社会保険で半分近く持っていかれた気がするんですよね」

Kさんの感覚は正しいんです。年収2,000万円だと、所得税の実効税率は30%を軽く超えてきます。社会保険料も加わって、手取りはざっくり1,200万円台という計算になる。懸命に会社の利益を出したのに、個人の財布はなかなか潤わない。多くの社長が感じているジレンマです。

一人に集中させると、税率がどんどん上がる

日本の所得税は「累進課税」という仕組みです。稼げば稼ぐほど、税率が段階的に引き上がっていく。年収1,800万円を超えると税率40%、4,000万円超では45%という最高税率が適用されます。

つまり、社長が100万円追加で稼いでも、手取りは40万円ちょっとしか増えない計算になります。これが「報酬を上げるほど非効率になる」という構造の正体です。

ここに、節税のヒントがあります。

分散するだけで、世帯全体の税負担が激変する

解決の方向性はシンプルです。課税対象を「一人に集中させない」こと。

たとえば、社長が2,000万円を一人で受け取る場合と、配偶者を役員にして1,200万円と800万円に分ける場合を比べてみましょう。

一人で2,000万円を受け取ると、40%の税率がかかる部分がかなり膨らみます。一方、800万円を配偶者が受け取ると、その部分には20〜23%の税率しかかかりません。同じ報酬総額でも、世帯の税負担の合計は大きく変わる。

Kさんのケースで試算してみると、奥様を役員として800万円の報酬を設定することで、世帯全体の税・社会保険の負担が年間280万円近く軽減できる見込みが出てきました。10年で2,800万円。この差は、会社経営において決して小さくない数字です。

税務署に否認されないための「3つの絶対条件」

ただし、「では明日から妻を役員にして報酬を払おう」と安易に動くのは危険です。税務署は形だけの節税を厳しくチェックしています。

まず業務に実際に従事していること。単に名前だけ登記しているのはアウトです。経理を担当している、採用活動を仕切っている、取引先との連絡を担っているなど、具体的な業務実態が必要です。税務調査で「どんな仕事をしていますか?」と問われたとき、本人がきちんと答えられる状態でなければなりません。

次に役員として登記されていること。法人の登記簿に役員として記載されることが形式的な前提です。登記なしに報酬だけ払っていても、税務上の役員報酬として認められません。

そして報酬額が業務実態に見合っていること。月に数時間しか関わっていないのに月60万円、というのは否認リスクが高い。担当業務の内容・時間・同業水準を踏まえて、合理的な金額を設定することが大切です。

この3つを全部クリアしていれば、家族役員への報酬分散は立派な合法的節税です。逆に1つでも欠けると「実態のない報酬」と判断され、過去にさかのぼって追徴課税されるリスクが生じます。

「家族は何もしていない」という場合は?

「妻はパート勤めで会社とは無関係」「子どもはまだ学生」という場合は、残念ながらこの方法は使えません。形だけの役員設置は最終的にデメリットのほうが大きくなります。

一方で、「妻に月数回、経理の入力や請求書対応を手伝ってもらっている」「息子が週末だけ現場の段取りを手伝っている」という場合は、実態の整理と適正な報酬設計によって節税の余地が十分に出てきます。

まず「家族が実際にやっている業務」を紙に書き出してみてください。案外、そこから話が進むことが多いです。

今期中に設計を整えるなら、今が動き時

家族役員の報酬設計は、業務実態の文書化・登記手続き・社会保険への影響・将来の相続税対策との整合性など、複数の観点から検討が必要です。「とりあえず役員にした」だけでは不十分で、設計の精度が節税効果と税務リスクの両方を左右します。

顧問税理士に「家族役員の活用を検討したい」と相談してみてください。実態がしっかりあれば、今期から動けることも多いはずです。年間300万円の差は、5年で1,500万円、10年で3,000万円。早めに手を打っておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。