先日、飲食業を経営する50代の社長からこんな質問を受けました。「うちの経理担当者と自分の経費精算、金額が全然違うんですけど、使いすぎって思われてないかな?」

その社長、全然使いすぎていませんでした。むしろ、社長として使えるはずの経費をまだまだ活用しきれていなかったんです。

実は、経費の扱いって社員と社長でまったく別のルールが適用されます。これ、意外と知られていないんですよね。

社員が経費にできるものには「壁」がある

社員の立場で考えてみましょう。会社員が自分の税金計算で経費にできるのは「給与所得控除」という一定額だけです。実費での申告は「特定支出控除」という制度がありますが、認められるケースは非常に限られています。

会社から精算される経費も、交通費・文房具・出張費といった直接業務に関わるものがほとんど。年間でも数十万円の範囲に収まるのが一般的です。

社長(役員)は「別の世界」のルールが適用される

一方、会社の代表者である社長には、法人の経費として計上できる項目が格段に増えます。代表的なものを挙げてみましょう。

役員社宅:会社が物件を借りて社長に転貸する仕組みです。家賃相場の1〜2割を本人が負担すれば、残りはすべて法人の経費になります。都市部では月に20〜30万円の家賃が、数万円の自己負担で済むこともあります。

社用車:通勤・営業で使う車を法人名義にすると、減価償却・ガソリン代・保険料・車検代がすべて経費の対象です。高級車でも業務使用の実態があれば認められます。

出張日当:旅費規程を整備すれば、出張のたびに日当を非課税で受け取れます。宿泊日当を1万円に設定していれば、月に数泊するだけで年間数十万円の節税になります。しかも日当は給与と違って社会保険料の計算対象にもなりません。

接待交際費:取引先との会食や贈答品も、法人なら上限付きで経費にできます。中小企業は年間800万円まで全額損金算入が可能です。

生命保険料:法人契約の保険は商品によって保険料の一部または全額を損金にできます。節税しながら退職金の原資を積み立てる、という一石二鳥の戦略です。

このほかにも、福利厚生費・セミナー参加費・専門書・スポーツクラブの法人会員費なども、条件次第で経費計上が可能です。

「知っているか知らないか」で年間100万円の差が生まれる

社員が年間数十万円の経費しか使えない一方、こういった仕組みをフル活用している社長は、年間100万円以上の法人経費を追加で計上できるケースが珍しくありません。

実効税率が30%だとすれば、100万円の経費計上で30万円の節税効果があります。3年続ければ90万円、5年で150万円。「知っているか知らないか」だけで、手元に残るお金がこれほど変わってくるわけです。

「何でも経費」は禁物。根拠と書類が命

もちろん、「社長だから何でも経費にできる」というわけではありません。プライベートと仕事の区別があいまいなものは、税務調査で指摘されるリスクがあります。

社用車を私用でも使う場合は、使用実態に応じた按分が必要です。役員社宅も賃料計算の根拠をきちんと残しておかないと、給与認定されてしまうことがあります。

大切なのは「合理的な根拠」と「書類の整備」。この2つがあれば、堂々と経費にできます。逆に言えば、書類さえ整っていれば、税務署から文句を言われる心配はほとんどありません。

まず「旅費規程」と「社宅規程」を整えるところから

社長として使える経費を活用しきれていない会社は、意外と多いです。特に旅費規程・社宅規程といった社内規程が整っていない会社は、今すぐ整備する価値があります。規程さえあれば、そこから先は合法的な節税の仕組みが動き始めます。

「うちはまだ何もやっていない」という社長は、今期の決算が終わる前に、一度顧問税理士にこの12種の経費について確認してみてください。知っているのと知らないのでは、数十万円単位の差になります。社員と同じ感覚で経費を使っているなら、それは損しているかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。