先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「毎月20万円の家賃、ずっと自分の口座から払ってるんですけど、これって何か対策できますか?」

年収ベースで240万円をそのまま個人負担している、ということです。所得税や住民税を引かれた「手取り」から払っているわけですから、実質的な負担はもっと大きい。これを聞いたとき、「もったいない」という言葉しか出てきませんでした。

実は、やり方を少し変えるだけで、自宅の家賃を会社の経費にできます。しかも合法的に、税務署に指摘されるリスクを抑えながら。今日はその方法を、具体的な数字と一緒にお伝えします。

会社が「借りて」、社長に「貸す」が基本の仕組み

そもそも、なぜ自宅が社宅になるのか。仕組みはシンプルです。

今まで社長個人が直接、大家さんと賃貸契約を結んでいたとします。これを「会社が大家さんと契約し、その物件を社長に貸し出す」形に変えるだけです。会社が払った家賃は全額、会社の経費(損金)になります。そして社長は会社に「賃料相当額」を少し払えばいい。

この「賃料相当額」が肝で、税法上のルールで計算すると、多くのケースで実際の家賃の10〜20%程度に収まります。つまり、月20万円の家賃なら、社長の個人負担は月2〜4万円。残りの16〜18万円は会社の経費になるわけです。

年間に換算すると、192〜216万円が損金計上できる計算になります。法人税率を30%とすれば、それだけで約60万円前後の節税効果が生まれます。

光熱費も「按分」で経費にできる

社宅の節税は、家賃だけで終わりません。見落としがちですが、水道代・電気代・ガス代といった光熱費も、仕事で使う部分を按分して経費計上できます。

在宅ワークやテレワークが増えた今、自宅での業務時間は長くなっています。仮に月々の光熱費が3万円だとして、そのうち半分を業務利用として按分できれば、月1.5万円、年間18万円が損金になります。

もちろん、按分の根拠は合理的に説明できる必要があります。「なんとなく50%」では税務調査で否認されるリスクがあります。面積や時間などを基準に、根拠を記録しておくことが大切です。

役員報酬を下げると「社会保険料」まで節約できる

ここからが、少しレベルの上がった話です。

社宅を使った節税の中で、特にインパクトが大きいのが、役員報酬と社会保険料の最適化です。

役員報酬を高く設定して個人で家賃を払うのと、報酬を少し下げて社宅として現物支給するのとでは、手元に残るお金が変わってきます。報酬が下がると、その報酬を基準に計算される社会保険料(健康保険・厚生年金)も下がります。会社負担分も個人負担分も、両方です。

たとえば役員報酬を月100万円から80万円に下げて、差額20万円分を社宅として現物支給する形にした場合。社会保険料の計算基礎(標準報酬月額)が下がるため、年間で数十万円単位の社会保険料削減につながることがあります。

これが「ダブル節税」と呼ばれる所以です。法人税を減らしながら、社会保険料も減らす。二方向から節税できる、かなり強力な手法です。

ただし、この計算は複雑です。報酬をどう設定するか、賃料相当額をどう算出するか、将来の年金受給額への影響は……と、考慮すべき変数が多い。「なんとなく」でやると、後から思わぬ問題が出ることもあります。必ず税理士と一緒にシミュレーションすることをお勧めします。

実際に手続きするときに注意したいこと

社宅への切り替えは手続きも必要です。主なポイントをおさえておきましょう。

まず、賃貸借契約の名義を「会社名義」に変える必要があります。既存の物件では大家さんの了承が必要なため、交渉が必要なケースもあります。新しく物件を探す場合は、最初から法人契約で進めると手続きがスムーズです。

次に、社長から徴収する「賃料相当額」は、税法上の計算式に従って算出しなければなりません。この金額が低すぎると、差額が給与とみなされて課税される可能性があります。計算式は建物の固定資産税評価額などをもとにするため、税理士や物件の資料を使って正確に算出しましょう。

また、この仕組みは「役員社宅」として取り扱われるため、一般社員向けの社宅とは計算ルールが異なります。混同しないよう注意が必要です。

自宅家賃を自腹で払い続けるのは、今日で終わりにしましょう

毎月の家賃を個人の手取りから払うというのは、税引き後のお金をそのまま支出しているということです。一方で、会社経費にすれば税引き前のお金で家賃をまかなえる。この差は、積み重なると年間で数十万〜100万円以上になることもあります。

「うちの会社にも使えるの?」と思った社長は、ぜひ一度、顧問税理士に「社宅の活用について相談したい」と声をかけてみてください。まだ顧問がいない場合も、この一点だけで専門家に相談する価値は十分あります。

今期の決算が近い方は、特に早めの確認をお勧めします。対策は早いほど、効果が大きくなりますから。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。