先日、あるクライアントの社長からこんな相談を受けました。「毎月の社会保険料が重くて、報酬を上げても全然手元に残らないんですよね」と。

年商2億円の製造業を営む50代の社長です。役員報酬は月150万円。健康保険料と厚生年金保険料を合算した社保負担が、会社負担・個人負担あわせて月23万円ほどになっていました。年間に換算すると約280万円。決して小さくない金額です。

社長の社保は「報酬の水準」がすべてを決める

厚生年金や健康保険の保険料は、月給の額をそのまま使うのではなく、「標準報酬月額」という等級に当てはめて計算します。この等級が高いほど、毎月の保険料も高くなります。

月150万円の役員報酬の場合、標準報酬月額は上限の等級に張り付いた状態です。会社と個人を合わせた保険料率はおよそ30%前後。つまり月150万円のうち約45万円が社保として消えていく計算になります。

この構造は、従業員が多い会社でも社長個人だけの話ではすみません。会社負担分もそのままコストとして決算に反映されるからです。

「等級をひとつ下げる」だけで年120万円変わる

ここで効いてくるのが、役員報酬の最適設計という発想です。

標準報酬月額には複数の等級があります。月収が一定の閾値を下回ると、ひとつ下の等級に移行し、そのぶん保険料が下がります。役員報酬を意図的に下の等級に収まるよう再設計することで、社保の算定基礎そのものを圧縮できます。

先ほどの社長のケースで試算すると、報酬を月15万円台に再設定することで、年間の社保負担を120万円以上削減できる見込みが立ちました。会社負担と個人負担の合算です。何か特別なスキームを使うわけではなく、制度の仕組みをそのまま活用した完全合法な対策です。

「じゃあ報酬を下げればいいだけ」ではない理由

ここで必ず出てくるのが、「それなら報酬を下げるだけですよね」という反応です。残念ながら、そうシンプルではありません。

役員報酬を大幅に下げると、毎月の手取り収入が激減します。生活費や住宅ローンの支払いに困る社長も出てきます。また、将来受け取る年金額も標準報酬月額に連動して計算されるため、報酬を下げ続けると老後の年金が減るというトレードオフがあります。

さらに、役員報酬は一度決めると原則として期中に変更できません。定期同額給与のルールがあるため、株主総会で変更決議した翌月からの適用になります。変更のタイミングを誤ると、税務上のリスクにもつながります。

退職金と配当を組み合わせて手取りを守る

毎月の生活水準を保ちながら社保を下げるには、退職金と配当との組み合わせ設計が鍵になります。

役員報酬を低めに設定し、会社利益を内部留保に積み立てていきます。将来の退職時に退職金として受け取ることで、税制上も有利な扱いになります。退職所得は2分の1課税という優遇があり、同じ金額でも給与として受け取るより税負担が大幅に軽くなるからです。

また、会社が利益を出した年は配当として受け取る方法も有効です。配当は社会保険料の計算対象外なので、報酬を抑えながら実質的な生活水準を維持できます。月の手取りは減っても、年間トータルの手元資金はむしろ増えるケースも少なくありません。

ただし、この設計は税務・社会保険の両方にまたがる話です。税理士だけでなく、社会保険を専門とする社労士との連携が不可欠です。節税だけを追いかけると、思わぬところで落とし穴にはまることがあります。

決算前に「一度だけ」試算してみてほしい

役員報酬の変更には株主総会の決議が必要です。3月決算の会社なら、6月の定時株主総会が変更のタイミングになります。「そういえばうちの社保、あまり考えてこなかったな」という社長は、決算が近づく前に試算だけでも依頼してみるのがおすすめです。

社保の最適設計は、一度やってしまえば毎年自動的に節約が続く仕組みです。年120万円の削減効果が10年続けば、それだけで1,200万円。退職金の原資にもなりえる金額です。

「社保は仕方ないコスト」と思って放置していた社長ほど、試算結果を見て驚くことが多いです。まだ役員報酬の最適設計を検討したことがない方は、今期の決算が来る前に一度、顧問の税理士か社労士に相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。