先日、年商2億円ほどの建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。
「去年と売上はほぼ同じなのに、なんか会社の手元が減った気がする。何か変わりましたっけ?」
試算表を一緒に見ていくと、原因はすぐ見つかりました。役員報酬の金額が、社会保険料の「等級の境界線」をわずかに超えていたんです。
「標準報酬月額」という見えない落とし穴
社会保険料(健康保険・厚生年金)は、実際の月収をそのまま使って計算するわけではありません。「標準報酬月額」という国が定めた区分表に当てはめて、該当する等級の保険料率をかけて計算します。
この区分表には、58万円、53万円、50万円、47万円……といった区切りが細かく設定されています。そして、月額報酬がその区切りを1円でも超えると、翌年度の保険料がひとつ上の等級に跳ね上がります。
「1円の違いで?」と思うかもしれませんが、本当にそうなんです。
月3万円の差が、年50万円の差になる
具体的なケースで見てみましょう。月53万円の役員報酬を設定している社長がいたとします。
これを月50万円に変えるだけで、厚生年金と健康保険の合計負担額が年間40〜50万円変わることがあります。しかも、社会保険料は会社と本人が折半して負担するので、会社側の支出も同時に減ります。つまり、社長個人の手取りへの影響と会社の資金繰りへの影響、両方が改善されるわけです。
年50万円というと、ランチ1,000円として500回分。決して小さな金額ではありません。
なぜ「気づかないまま1年間」払い続けてしまうのか
ここが最も重要な話です。役員報酬は、原則として事業年度の開始から3か月以内にしか変更できません。期中に「やっぱり変えよう」と思っても、税務上の損金算入が認められなくなる可能性があるため、基本的に手が出せないんです。
3月決算の会社であれば、4・5・6月の定時株主総会の時期が変更のタイミング。それを逃すと、次に直せるのは1年後ということになります。
冒頭の社長のケースも、前期の決算前に確認できていれば、今期1年間ずっと余分な保険料を払い続ける事態は避けられていました。
チェックすべきポイントは3つ
決算前に確認しておきたいのは、以下の3点です。
- 現在の役員報酬が、標準報酬月額の区分の「どの位置」にあるか
- 区分の境界に近い場合、少し下げることで節約できる保険料はいくらか
- 手取り額・法人税・社会保険料の三者を合わせてトータルで最適化できているか
特に3点目が大事で、社会保険料だけを見て報酬を下げると、今度は所得税や住民税のバランスが崩れることもあります。単体で見るのではなく、全体の数字で判断するのがポイントです。
「去年と同じにしておけば大丈夫」は危険
業績が上がって報酬を少し増やした年、あるいは前任の顧問が設定した金額をそのまま引き継いでいる場合など、区分の境界をまたいでいることに気づいていないケースは意外と多いです。
「去年と同じにしておけば安心」と思いがちですが、等級の区分自体が毎年改定されることもあります。数年前に最適化した金額が、今は最適ではなくなっている可能性もゼロではありません。
次の決算が近づいたら、担当の税理士や社労士に「今の役員報酬、標準報酬月額の区分で見てどこになりますか?」と一度聞いてみてください。数字を確認するだけで、年間数十万円の無駄を防げることがあります。毎年のルーティンにしておく価値は、十分にあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務・社会保険の判断は税理士・社会保険労務士にご相談ください。