先日、創業10年の建設会社の社長から、こんな相談を受けました。「毎月の給料は据え置きなんですが、なんとなく社会保険料が重くて……」。

決算書を一緒に確認すると、役員報酬は月60万円。一見すると普通の設定です。でも、標準報酬月額の区分を調べてみると、あることが見えてきました。少し設定を変えるだけで、年間コストが大きく変わる余地があったのです。

月10万の差が、年30万以上の差になる

社会保険料(健康保険+厚生年金)は、役員報酬の月額をもとに計算されます。正確には「標準報酬月額」という区分に当てはめて保険料が決まる仕組みです。

この区分が曲者で、月50万円と月40万円では年間の負担額がかなり変わってきます。会社負担と本人負担を合計すると、その差は年30万円を超えることも珍しくありません。

しかも毎月、自動で引き落とされているので「払いすぎている感覚」がない。これが「見えない損失」と呼ばれるゆえんです。自社の社会保険料の内訳を正確に把握している社長は、意外に少ないのではないでしょうか。

報酬を下げれば済む話ではない

「じゃあ今すぐ月10万下げよう」と飛びつくのは早計です。

役員報酬を下げると、手取り収入が減るだけでなく、将来受け取れる厚生年金の額も少なくなります。退職金の計算方式によっては、退職金の受取額に影響してくることもあります。社会保険料の節約だけを見て判断すると、老後の収支設計が崩れてしまうリスクがあるのです。

さらに、報酬を下げると法人の利益が増えるので、法人税の課税対象が広がる可能性もあります。「社保を減らしたら、代わりに法人税が増えた」という本末転倒を避けるためには、全体のバランスで考えることが必要です。

何年も払い続けてきた「余分なコスト」

よくあるパターンが、創業時に設定した役員報酬をずっとそのまま放置しているケースです。

売上が伸びて余裕が出てきたから報酬を上げた。でも社会保険料の見直しはしていない。そのまま5年、10年と経過してしまう。こうして長年にわたって必要以上の保険料を払い続けている社長が、実はかなり多いのです。

年30万円の差が10年続けば300万円。決して小さくない金額です。この300万円は、すでに払い終わった費用として消えています。「知っていれば……」と後悔する前に、今の設定を一度見直してみる価値は十分あります。

見直すなら算定基礎届のタイミングで

役員報酬を変更するには、原則として定時株主総会での決議が必要です。さらに、社会保険料に反映されるタイミングも決まっています。

毎年4〜6月の給与をもとに9月から新しい保険料が適用される「定時決定(算定基礎届)」という仕組みがあります。このタイミングに合わせて報酬額を見直すと、計画的に社会保険料の負担を最適化できます。

今がちょうど5〜6月なら、まさに絶好のタイミングです。今から動いておくと、9月からの保険料が変わってきます。焦って年度途中に動くより、このサイクルに乗って整理する方がずっとスムーズです。

「今の設定、最適ですか?」と顧問税理士に一言

現在の役員報酬が標準報酬月額のどの区分に当たるか、顧問税理士に一度確認してみてください。

報酬額を変えずに、少し設定を調整するだけで区分が下がるケースもあります。逆に、報酬を下げると所得税・住民税・法人税との兼ね合いで、かえって手元に残るお金が減ることもあります。こうした複雑な計算は、シミュレーションを含めて専門家に任せるのが確実です。

「今の設定、最適ですか?」——この一言を聞くだけで、思わぬ節税のヒントが見つかることがあります。今期の決算が終わる前に、ぜひ一度チェックしてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。