先日、創業10年目の建設会社の社長からこんな相談を受けました。「役員報酬って、なんとなく創業当初から変えていないんですよね」と、少し恥ずかしそうにおっしゃっていました。
売上は順調に伸び、年商は3億円を超えています。でも役員報酬は創業期に設定した月40万円のまま。この「放置」が、毎年大きな損失を生み続けていたのです。
最適でない役員報酬は、静かにお金を奪い続ける
役員報酬の設定は、法人税と社会保険料という2つの大きなコストに同時に影響します。
役員報酬を上げると、会社の利益(課税所得)が減って法人税は下がります。一方で、社長個人の所得税と社会保険料(健康保険・厚生年金)は増える。逆に役員報酬を抑えれば、法人に利益が残るぶん法人税が増えます。
この2つのバランスを「今の会社の規模と利益水準」に合わせて最適化するのが、役員報酬見直しの本質です。
問題は、最適なバランスが毎年変わるということ。売上が伸びれば利益も増え、最適な役員報酬のレンジが変わります。扶養家族の状況が変わっても変わる。創業時に「ちょうどいい」と感じた設定が、5年後も最適とは限りません。
冒頭の社長の場合、試算すると役員報酬と法人留保の組み合わせを変えるだけで、トータル負担を年間250〜300万円ほど減らせる可能性がありました。10年放置したということは、それだけのロスが積み上がっていたことになります。
変更できるのは「事業年度開始から3か月以内」だけ
役員報酬を節税に活用するうえで、絶対に知っておきたいルールがあります。
法人税法上、役員報酬を「損金(経費)」として認めてもらうには、毎月同額を支払う定期同額給与として設定する必要があります。そしてこの定期同額給与を変更できるのは、原則として事業年度開始から3か月以内の期間だけです。
3月決算の会社なら、4月〜6月末までが変更の窓口。9月決算なら10月〜12月末まで。
この期間を外して役員報酬を増額すると、増額分が損金として認められません。つまり「報酬を上げたのに、その分の経費計上が認められない」という最悪の事態が起きます。節税どころか、余計な税金を払うリスクさえあります。
「来年から上げよう」と思っていたのに、タイミングを確認せずにいたら変更窓口を過ぎていた——という話は、決算期前後によく聞くパターンです。
毎年やるべき「3点セットのシミュレーション」
対策はシンプルです。決算が締まったら、次の3点をセットで見直す習慣をつけること。
- 役員報酬の月額設定
- 翌期の法人予想利益
- 会社・個人を合わせた社会保険料の負担額
この3つを組み合わせて「法人税+社会保険料+所得税のトータルが最小になる設定」を探すのが、正しいアプローチです。
具体的な最適額は、会社の規模や家族構成、他の所得状況によっても異なります。年商1億と年商5億では、最適な役員報酬のレンジがまったく違います。「月〇〇万円にすれば節税になる」という一律の答えはなく、個別のシミュレーションが必要です。
タイムリミットを今すぐ確認してほしい
あなたの会社の決算月はいつですか?
3月決算なら今年の変更タイミングは6月末、9月決算なら12月末が期限です。この期限を過ぎると、次の変更チャンスは丸1年後になります。
毎年きちんと見直している会社と、創業時の設定を放置している会社では、10年後に数千万円単位の差が生まれていることも珍しくありません。役員報酬の「放置」は、無自覚なまま続く税の払い過ぎです。
「役員報酬の見直しシミュレーションをお願いしたい」——顧問税理士にこの一言を伝えるだけで、来期から効果が出始めます。今期の変更窓口が残っているうちに、ぜひ動いてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。