先日、ある製造業の社長からこんな連絡が来ました。「売上が好調だったので7月に役員報酬を50万円上げたんですが、税理士にかなり怒られまして……」。

話を聞くと、7月から翌3月までの9ヶ月分、増額分だけで450万円が損金不算入になっていました。会社としては正当に払った報酬なのに、税務上は「経費として認められない」と判定され、法人税の支払いが数百万円単位で膨らんでしまったのです。

役員報酬は「業績が上がったから増やす」「厳しくなったから減らす」という感覚で動かしてしまいがちです。でも実際には、動かせるタイミングが法律で厳格に決まっています。今日はそのNGパターンを3つ、実例を交えながらお伝えします。

まず「定期同額給与」の基本ルールを押さえておく

法人が役員に支払う報酬を損金(経費)として認めてもらうには、原則として「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。毎月、同じ金額を継続的に支払うことが条件です。

そして変更できる期間が、事業年度開始後3ヶ月以内と定められています。3月決算の会社であれば、4・5・6月の3ヶ月間だけが「合法的に変更できる窓口」です。この窓口の外で変更すると、変更分が損金に算入されなくなります。

シンプルなルールに見えますが、これを知らずに動いてしまう社長が意外と多いのが現実です。

NG第3位:7月以降の変更は「差額×残り月数」が丸ごと飛ぶ

最も多いのが、期中に変更してしまうケースです。

3月決算の会社で、7月に月額50万円増額したとします。すると7月から翌3月の9ヶ月分、つまり増額分450万円が損金不算入になります。払った給与なのに、その分だけ課税所得が増えてしまう計算です。

「売上が伸びたから報酬を増やしたい」という判断自体は間違っていません。ただ、その変更ができるのは事業年度最初の3ヶ月だけです。それを過ぎてしまったら、翌期の期首まで待つしかありません。タイミングを1ヶ月間違えるだけで、数百万円単位の損失につながることを頭に入れておいてください。

NG第2位:「月1万円の微調整」も同じルールが適用される

「大きな変更じゃないから大丈夫だろう」という感覚で動くのも危険です。

定期同額給与には「少額変更の例外」は存在しません。月1万円であっても、期中の変更であれば同じ扱いになります。金額が小さいほど見逃しやすいだけに、かえって注意が必要です。

「調整のつもりでちょっと変えた」が、税務調査で指摘されると話は変わってきます。変えるなら翌期の期首3ヶ月以内に計画的に。これが鉄則です。金額の大小にかかわらず、変更のタイミングにだけ集中して判断するようにしましょう。

NG第1位:業績が悪化しても「黙って減額」は認められない

逆のパターン、つまり業績が厳しくなったときに役員報酬を下げるケースも落とし穴があります。

業績悪化を理由にした減額は、一定の手続きを踏めば損金として認められます。ただし手続きを省略すると、減額した分が損金不算入になってしまいます。

具体的には、取締役会を開催して「業績悪化改定事由」として決議し、その内容を議事録に残す必要があります。「苦しいのに報酬を下げてはいけないのか」という話ではなく、「手続きを取らずに下げると、税務上は認められない」ということです。

業績が悪いときほど、コストを減らすために即座に役員報酬を下げたくなるのは自然な感情です。でもそこで焦って動くと、議事録なし・決議なしの状態が生まれます。税務調査でこれが指摘されると、減額した分まで損金不算入として追加課税されるリスクがあります。業績が苦しいときこそ、税理士に相談してから動いてください。

来期の変更計画は、今から仕込んでおく

役員報酬の変更窓口は、事業年度が始まってからの3ヶ月だけです。この期間を逃すと次の変更機会は1年後になります。

「来期はもう少し上げたい」「そろそろ減らして節税を見直したい」と考えているなら、決算前から税理士と話し合って次期の設計をしておくことをおすすめします。決算が近づいて慌てて動こうとしても、すでに変更できない時期に入っていることが多いです。

役員報酬は、金額だけでなく「いつ・どう変えるか」が節税効果を大きく左右します。タイミングのルールを押さえておくだけで、余計な税負担を防ぐことができます。来期の窓口を有効に使うための準備を、今のうちに始めておきましょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。