先日、ある社長からLINEが届きました。「今期は利益が出そうだから、来月から役員報酬を上げようと思うんですが大丈夫ですか?」

気持ちはよくわかります。頑張った分をきちんと形にしたい、それは自然なことです。でも、税務の世界では「来月から」という選択が、思わぬ損失を生むことがあるんです。

役員報酬には「変更できる時期」が決まっている

法人税法上、役員報酬を損金(経費として認められる支出)にするためには「定期同額給与」という条件を満たす必要があります。毎月、決まった同じ金額を支払い続けるというルールです。

そしてこのルールには、もうひとつ重要な縛りがあります。変更できるタイミングが「事業年度開始から3ヶ月以内」に限られているのです。

3月決算の会社なら4〜6月末まで、12月決算の会社なら1〜3月末まで。この窓を過ぎてしまうと、たとえ会社の業績が絶好調でも、役員報酬を増やすことは税務上のリスクを伴います。

「50万円の損」は大げさな数字ではない

実際にどれくらいの影響が出るのでしょうか。

たとえば、月50万円だった役員報酬を、業績好調を受けて10月から月67万円に増額したとします。増加分は月17万円。年度末まで9か月残っていれば、増加分の合計は153万円です。

この153万円が「損金不算入」、つまり経費として認められません。法人税率を30%とすれば余分に払う税金は約46万円、地方税を含めると50万円近い税負担増になることもあります。

報酬として受け取るお金は増えているのに、税引き後で考えると手元に残る額が大幅に減る。そういう構造になっているのです。

なぜ「年度途中」はダメなのか

「業績が良いんだから、上げてもいいじゃないか」と思うかもしれません。でも税務当局の立場に立つと、こういう見方になります。

「業績好調が見込めるなら、事業年度スタートの時点で報酬を上げておくべきだった。年度途中の増額は、利益を調整するためにやっているのではないか」

役員報酬は、会社の利益と税金を直接調整できる項目です。だからこそ、恣意的な変更を防ぐために変更時期が厳しく制限されているのです。

例外はあるが、「好業績」は対象外

まったく変更できないわけではありません。次のような「臨時改定事由」がある場合は、期中でも変更が認められています。

  • 業績が著しく悪化したとき
  • 役員の職制上の地位が変わったとき(社長から会長への就任など)
  • その他、会社の経営状況に大きな変化があったとき

注意してほしいのは、「業績が好調になった」はこの例外に含まれないという点です。認められるのは主に「悪化」方向の変更。利益が増えたから報酬も増やしたい、というケースはほぼ例外事由として認められないと考えた方が安全です。

経営者が持っておくべき習慣

役員報酬の見直しは、毎年の定例イベントとして仕組み化しておくのが一番です。

決算が終わったタイミングで顧問税理士と「来期の役員報酬をどうするか」をセットで話す。この習慣があれば、大事な変更のタイミングを逃すことはありません。

「もう少し様子を見てから上げようかな」という気持ちはわかります。でも、その様子見が3ヶ月の窓を閉じてしまう原因になります。判断が難しければ、少し控えめな金額に設定しておいて翌年度で調整する、という考え方もひとつの選択肢です。

まだ顧問税理士と役員報酬の見直しタイミングをすり合わせできていない場合は、次の決算時に必ず議題に入れておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。