「手取りを増やそうと思って報酬を上げたのに、税負担が逆に増えました」

先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。話を聞いてみると、期中に役員報酬を月100万円から120万円に変更していたことが判明。顧問税理士から「これは損金に落とせません」と告げられ、青ざめていたというのです。

自分の報酬を増やしただけなのに、なぜ会社の税負担が増えるのか。今回はその仕組みと、絶対に知っておくべきルールをお伝えします。

役員報酬には「毎月同額」のルールがある

会社の経費として役員報酬を損金算入するには、「定期同額給与」として毎月同じ金額を支払い続けることが条件です。これは税法上のルールで、役員報酬を自由に増減できないようにする仕組みになっています。

一般の従業員の給与は業績や評価に応じて柔軟に変更できますが、役員は会社と利益相反の関係にあるため、都合よく報酬を操作して税負担を調整することを防ぐ目的があるのです。

変更できるのは「期首から3ヶ月以内」だけ

役員報酬を変更できるのは、原則として事業年度が始まってから3ヶ月以内に限られています。

4月が期首の会社なら、変更できるのは4月・5月・6月の3ヶ月間。7月以降に「やっぱり上げたい」と思っても、原則として認められません。

このルールを知らずに、業績が好調だった10月に「そろそろ自分の給料を上げよう」と変更してしまう社長が毎年一定数います。

差額が丸ごと損金不算入になる

問題は、変更自体が完全に無効になるわけではないという点です。変更後の報酬を支払うこと自体は問題ありませんが、変更前の金額との差額分が損金不算入として扱われます。

冒頭の社長の例で計算してみましょう。

  • 変更前:月100万円
  • 変更後:月120万円
  • 変更時期:10月(4月期首の会社)

差額は月20万円。10月から翌3月までの残り6ヶ月分で計算すると、20万円×6ヶ月=120万円が損金不算入になります。

仮に期首から半年が経過した10月に変更していたとしても、残り期間が多ければ多いほど不算入額は膨らみます。7月に変更していたなら、20万円×9ヶ月=180万円が吹き飛ぶ計算です。

法人税率を30%と仮定すると、180万円の損金不算入で追加の税負担は約54万円。手取りを増やすつもりが、会社から54万円を余分に払い出しているのと同じことになります。

「業績が良かったから上げたかった」では通らない

よくある勘違いとして、「業績が好調だったから正当な理由がある」「定時株主総会で承認を受けた」という主張がありますが、これだけでは損金算入の要件を満たしません。

税法が認める期中変更の例外は、経営状況が著しく悪化した場合など限定的です。業績が良くなったからといって期中に上げるのは、この例外には当たりません。

節税のつもりが逆効果になるパターンとして、これは非常に典型的な事例です。

年に一度、期首3ヶ月以内に見直す習慣を

対策はシンプルです。役員報酬の見直しは、事業年度が始まったタイミングで年に一度だけ行うと決めてしまうことです。

具体的には、期首月の取締役会または株主総会で正式に決議し、その議事録を残しておくことが大切です。議事録がないと、変更の事実を証明できずにトラブルになるケースもあります。

「今期は業績が読めないから、ひとまず低めに設定して役員賞与で調整しよう」という発想も有効ですが、役員賞与は原則として損金算入できないため、その点も踏まえた設計が必要です。

報酬設計は単純に見えて、実は法人税・所得税・社会保険料のバランスが絡む複雑な問題です。今の役員報酬が本当に最適な水準かどうか、期首のタイミングで一度税理士に相談してみることをおすすめします。変更の余地があれば、3ヶ月以内という期限を逃さないための準備も一緒にできます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。