先日、こんな相談を受けました。
「税理士にはきちんと書類を出してるし、申告も全部お任せしてる。でも、なんか節税できてる実感がなくて……」
そう話してくれたのは、年商2億円の製造業を経営する田中社長(仮名)。会社の業績は悪くない。でも毎年「思ったより手元に残らないな」という感覚が拭えなかったそうです。
試しに経費の棚卸しをしてみたところ、驚くべき事実が出てきました。5つの「やっていなかったこと」だけで、年間600万円超の経費が未計上になっていたのです。実効税率33%で換算すると、約200万円の節税余地があったことになります。
「税理士に任せていれば大丈夫」と信じていた田中社長にとって、これは相当な衝撃でした。
1. 旅費規程がなく、日当をゼロにしていた
出張のたびに「実費精算のみ」で処理していませんか?
旅費規程を整備して「日当」を支給する形にすると、その日当は会社の損金になりながら、受け取った役員・社員には所得税がかかりません。給与として払うよりも税負担が少ない形でお金を動かせる、合法的な節税手法のひとつです。
田中社長の場合、年間30日程度の出張があったにもかかわらず、社内に旅費規程が存在しませんでした。日当を1日1万円に設定していれば、それだけで年30万円の経費が生まれていた計算です。規程の作成自体は難しくなく、税理士に相談すれば数日で整備できます。
2. 役員社宅の仕組みをまったく使っていなかった
社長が自宅の家賃を全額個人で払っているなら、役員社宅の仕組みを必ず確認してください。
会社が物件を借り上げて、役員に低廉な賃料で貸し出す「役員社宅」制度を使えば、家賃の大部分を会社の経費にできます。役員個人の実質手取りは変わらない(むしろ増える)のに、会社の課税所得は下がる。節税効果が高い手法として知られています。
田中社長は月20万円の家賃を全額個人払いにしていました。会社負担分をきちんと設定していれば、年間で数十万〜百万円単位の経費化が可能だったケースです。ただし、賃料設定を誤ると役員への経済的利益とみなされるリスクがあるため、設定額は必ず税理士に確認することが大前提です。
3. スマホと自宅ネット回線が丸ごと個人払いだった
仕事でスマホを使っているのに、通信費を全額個人で負担している社長は少なくありません。
業務で使っている割合に応じて通信費を会社経費として計上することは認められています。「業務利用が何割か」を合理的に説明できれば問題ありません。田中社長の場合、スマホだけでなく自宅のインターネット回線まで個人払いのままでした。月5〜6万円の通信費のうち、業務分として半分を計上するだけでも年30万円超の経費になります。
これは今すぐできる見直しのひとつです。今期の途中からでも対応できます。
4. セミナーや書籍代を「個人の勉強代」と思い込んでいた
セミナー参加費、書籍代、オンライン講座の受講料。これらを「社長の自己啓発だから経費にできない」と思って自腹にしていませんか?
業務に関連する研修・教育費は、会社の経費として計上できます。「自分のスキルアップだから会社経費にしづらい」という思い込みは非常に多いのですが、業務との関連が説明できるものであれば問題ありません。田中社長は年間50万円近くを個人で支出していました。経営セミナー、マーケティング関連の講座、財務の書籍……これらをそのまま会社払いにしていれば、丸ごと経費になっていた話です。
5. 役員の健康診断費用が個人払いのままだった
会社が費用を負担する健康診断は、福利厚生費として経費計上できます。
にもかかわらず「役員は個人でやってもらってる」という会社が意外と多い。田中社長の会社も、役員2名分の健診費用が毎年個人払いになっていました。1人あたり年3〜5万円とすると小さく見えますが、これも積み重なれば無視できない金額です。
5つの項目を合計すると、田中社長のケースでは年間600万円超の経費が未計上。実効税率33%で換算すると、200万円近い税金が「払わなくて済んだかもしれないお金」だったわけです。
これは特殊なケースではありません。中小企業の経営者に話を聞くと、同様の見落としが非常に多いのが現実です。税理士に書類を渡して申告を任せているだけでは、節税の提案まで自動的にやってもらえるとは限りません。
まずは「旅費規程はあるか」「社宅の仕組みを使っているか」「通信費の按分は適切か」この3点だけでも確認してみてください。顧問税理士との面談で「うちで使えそうな経費の漏れはないですか?」と一言聞いてみるだけで、意外な答えが返ってくることがあります。
まだ旅費規程を整備していないなら、今期中に一度対応しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。