先日、知り合いの税理士からこんな話を聞きました。
「お客さんの帳簿を一緒に見直したら、3年間で300万円近く余分に税金を払っていたことがわかって、社長が青ざめていたよ」
ミスでも不正でもなく、ただの「思い込み」が原因だったそうです。そしてこれ、決して他人事ではないのです。
習慣になっていた「個人払い」が3年間続いた
年商5億円の工務店を経営するKさんは、現場一筋の職人社長。腕も実績も申し分ないのですが、経理は奥様任せ、税務は税理士任せというスタイルで長年やってきました。
毎月、仕事で使うスマートフォンの通信費、現場で使うモバイルWi-Fi代、見積もり管理や工程管理のクラウドサービス代——これらをずっと個人のクレジットカードで払い続けていました。
「スマホは自分名義で契約しているし、個人の支払いのほうが楽だから」という感覚です。特に疑問も持たず、会社を立ち上げた当初からずっとその習慣を続けていました。
帳簿を見直したとき、衝撃の事実が判明した
ある年の決算前、税理士から「一度、社長の個人の支出も一緒に見直しましょう」と声をかけられました。Kさんは言われるままに個人のクレカ明細を持参したのですが——
通信費、Wi-Fi代、複数のSaaSサービスのサブスクリプション費用。仕事に使っているにもかかわらず、これらがすべて会社の帳簿に一切載っていませんでした。
1年分を集計してみると、約330万円。この金額が、まるまる会社の経費として計上されていなかったのです。
法人税率を約30%で計算すると、年間で約100万円の節税機会を逃していた計算になります。それが3年間続いていたということは——3年間で合計300万円近くを、余分に納税し続けていたことになります。
問題の本質は「先入観」にある
Kさんのケースで起きたことは、特別なミスでも悪意でもありません。「個人のクレジットカードで払っている=個人の支出」という先入観が、見直しのきっかけを奪っていたのです。
でも実際には、支払い名義や決済手段がどうであれ、その支出が「事業のために使われているもの」であれば、会社の経費として計上できます。個人名義の契約でも、実態が業務利用であれば法人の損金に算入することが可能です。
多くの中小企業の社長が同じ落とし穴にはまっています。特に、会社を立ち上げた当初に個人払いで始めてそのまま習慣化してしまった場合は要注意です。
見落としやすい「個人払い経費」の代表例
実際によく見落とされているものをいくつか挙げてみます。
- 業務で使うスマートフォン・タブレットの通信費
- 自宅や個人名義で契約したインターネット回線(業務利用分)
- 仕事で使うSaaSツール・サブスクリプション費用
- 業務に関連する書籍・セミナー・オンライン講座の費用
- 自家用車の業務利用分(ガソリン代・高速代・駐車料金)
もちろん、プライベートと業務を兼用しているものは按分計算が必要で、全額経費にはなりません。それでも、きちんと整理するだけで年間数十万円単位で変わるケースは珍しくありません。
今できる最初の一歩は「棚卸し」だけ
Kさんが3年間気づけなかった理由は、「誰も一緒に確認する機会がなかった」からです。税理士との打ち合わせが決算前後だけで、日常的な支出の確認が習慣になっていなかった。
おすすめは、年に一度でいいので、「自分がプライベートで払っているもの」の明細を税理士に見せることです。「これって経費になりますか?」と聞くだけで、意外な答えが返ってくることがあります。
「どうせ個人のものだから」と諦める前に、一度棚卸しをするだけで、Kさんのように年100万円を取り戻せる可能性があります。まだ支出の見直しをしたことがないなら、今期中に一度、個人の支出明細を税理士に持っていくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。