先日、顧問先の社長からこんな話を聞きました。「うちの役員報酬、ずっと同じ金額にしてるけど、別に問題ないよね?」と。
そのとき私は少し慎重になりながら、こう返しました。「一度、社会保険料の等級を確認してみましょうか」と。
役員報酬は「なんとなく変えずにきた」という会社が、意外と多いです。利益に合わせて増やしたり、節税目的で調整したりするケースはあっても、社会保険料の「等級境界線」を意識して設定している社長は、正直ほとんど見かけません。
月3万円の差が「等級」をまたぐとき
社会保険料は、毎月の給与から単純な割合で計算されるわけではありません。「標準報酬月額」という一定の幅でまとめられた「等級」で決まります。
たとえば月額報酬が42万円のケースを考えてみましょう。健康保険ではこの報酬額は一つの等級に収まっていますが、そこから3万円下げて39万円にすると、等級が二段下がることがあります。
この等級差で、健康保険料と厚生年金保険料を合わせた社会保険料が月額1万5000円〜2万円近く変わるケースがあります。会社負担と個人負担は折半なので、会社側が負担する分だけでも年間10万円以上の差になることがあるのです。
「たった3万円下げるだけで10万円変わるの?」と驚く社長もいますが、これが等級制度の仕組みです。
境界線のどこにいるか、把握していますか?
問題は、多くの会社が「自分の役員報酬が等級の境界線のどこにあるか」を把握していないことです。
等級は全部で32等級(健康保険)あり、それぞれに「〇〇万円以上〇〇万円未満」という幅があります。たとえば報酬が50万円ジャストに設定してある場合、少し下の48万円にするだけで一つ下の等級に下がり、年間の社会保険料負担が数万円軽くなることがあります。
確認すべきなのは、「現在の役員報酬が、等級の中の真ん中あたりにあるのか、境界線のすぐ上にあるのか」という点です。ギリギリ上にあるなら、数万円下げるだけで等級が下がり、社会保険料が軽減されます。逆に、少し上げても等級が変わらないなら、手取りを増やすほうが合理的という判断にもなります。
2026年こそ、見直しのタイミング
2026年は、社会保険制度の見直し議論が本格化しています。被扶養者の収入基準の変更や、パート・アルバイトの加入要件拡大など、制度の変化が相次いでいます。
こうした動きに対応するためにも、役員報酬の設定を「なんとなく据え置き」にしておくのはリスクがあります。制度が変わったとき、現在の報酬設定が思わぬ負担増につながる可能性があるからです。
今期の役員報酬をまだ変更していないなら、今がまさに見直しの絶好機です。
役員報酬の変更には「タイムリミット」がある
ここで一つ、重要な制約をお伝えします。役員報酬を税務上の問題なく変更できるのは、原則として「事業年度開始から3か月以内」です。
これを過ぎると、期中での役員報酬変更は「定期同額給与」の要件を外れ、変更分が損金として認められなくなる可能性があります。節税のつもりで変えたのに、逆に税務上の不利を受けるのは本末転倒です。
3月決算の会社なら4月・5月・6月が変更可能な期間。今月中に動けない会社は、来期の方針として今から試算と準備を始めておくことが大切です。
まず「等級表」を確認して、顧問税理士に相談を
難しく考える必要はありません。まずやるべきことは、日本年金機構が公開している「標準報酬月額表」を見て、自分の役員報酬がどの等級に属しているかを確認することです。
確認したら、境界線に近い位置にある場合は顧問税理士に「少し下げたら等級が変わるかどうか」を聞いてみてください。変更の影響は手取り・法人税・社会保険料の三方向にまたがるため、トータルで試算してもらうことが重要です。
役員報酬の設定は一度決めたら終わりではありません。毎期の決算を機に、等級の境界線を確認する習慣をつけておくだけで、年間の負担が大きく変わることがあります。今期の変更期限内に動けるなら、ぜひ今週中に顧問税理士へ一報を入れてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。