先日、売上が3億円規模の建設会社を経営する社長から相談を受けました。
「毎月の社会保険料、なんだかすごく高い気がするんですよね」と、少し困ったような顔でおっしゃっていました。数字を確認してみると、役員報酬が月120万円に設定されていました。
一見、問題なさそうに見えます。しかし社会保険料の計算をしてみると、本人負担と会社負担を合わせて年間420万円を超えていました。「これ、もう少し最適化できますよ」と伝えたとき、社長の表情が一気に変わりました。
役員報酬28%の「見えないコスト」
役員報酬には、一般の給与と同様に社会保険料がかかります。健康保険・厚生年金の合計で、本人負担と会社負担を足すと**報酬の約28%**になります。
月100万円の役員報酬なら、毎月28万円の社会保険料が発生します。年間に換算すると336万円。これが「見えない支出」として毎月静かに積み上がっていきます。
「税金の対策はちゃんとやっている」という社長でも、社会保険料の最適化まで手が回っていないケースは本当に多い。法人税率は意識していても、社会保険料の設計を後回しにしてしまうのです。
高い報酬が「損」になるメカニズム
役員報酬を高くすると、会社の利益が減って法人税は下がります。一方で社会保険料は上がります。この二つはトレードオフの関係にあります。
ある水準を超えると、「法人税で節約した額より、社保で増えた額のほうが大きい」という逆転現象が起きます。報酬を高めに設定したまま何年も経過し、気づいたときには累積で数百万円の余分なコストがかかっていた、という話は珍しくありません。
逆に言えば、適切な水準に調整することで、手取りをほぼ変えずに会社全体の社会保険料負担を年間数百万円単位で削減できるケースがあります。特に報酬が高めに設定されている社長ほど、この最適化の余地が大きいことが多いです。
差額はどこへ回すのか
「報酬を下げたら手取りが減るんじゃないの?」——そう思う方は多いです。
ここがポイントで、差額を法人内にとどめておいて活用する設計をします。役員退職金の積み立て、会社への貸付金の返済、経費化できる支出への振り替えなど、うまく設計すれば、トータルの手残りは変わらない、あるいは増えることもあります。
たとえば月120万円から月80万円に役員報酬を変更した場合、社会保険料の差だけで年間100〜200万円規模になることがあります。その分を会社に留保して退職金の原資にすれば、将来の手取りもしっかり確保できます。報酬を「下げる」というより、「受け取り方を変える」という発想です。
最適額は「あなたの会社の数字」で決まる
ここで強調しておきたいのは、役員報酬の最適額は人によってまったく異なるということです。
影響する主な要素を挙げると:
- 会社の利益水準(法人税をどれだけ圧縮する必要があるか)
- 社長の年齢(厚生年金の受給設計との兼ね合い)
- 家族構成(配偶者や子どもの扶養の有無で社保負担が変わる)
- 役員退職金の計画(いつ、いくら受け取るか)
- 他の役員や従業員への給与設計
これらを総合的に考えて初めて、「この会社のこの社長には月◯◯万円が最適」という答えが出ます。ネットに書いてある「役員報酬は◯◯万円が節税になる」という情報をそのまま自社に当てはめるのは危険です。
見直せるチャンスは年に1回だけ
役員報酬は、原則として事業年度開始から3か月以内に決定する必要があります。期の途中で変更すると「定期同額給与」の要件を外れ、法人税の損金に算入できなくなるリスクがあります。
つまり、最適化のタイミングは1年に1回しかありません。「来期からやろう」と思っていると、気づけば何年も余分なコストを払い続けることになります。
今まさに決算期が近い方、あるいは来期の報酬額をまだ決めていない方は、一度税理士に「今の報酬設定で本当にいいか」をシミュレーションしてもらうことをおすすめします。一枚の試算表が、年間数百万円の判断材料になることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。