先日、20年以上会社を経営している社長から、こんな相談を受けました。
「そろそろ引退のことも考えないといけないんだけど、退職金ってどう決まるの?」
試算してみると、その社長の役員報酬は月額40万円。「今から報酬を少し見直しておけば、退職金が数百万単位で変わりますよ」とお伝えしたら、目を丸くされていました。報酬設計と退職金が連動している、この事実を知らない経営者は、じつはとても多いのです。
退職金は「最終報酬月額」でほぼ決まる
役員退職金には、税務上の適正額を求める計算式があります。
最終報酬月額 × 在職年数 × 功績倍率
功績倍率とは、経営者がどれだけ会社に貢献したかを示す数値で、代表取締役であれば2〜3倍が税務調査でも否認されにくい一般的な目安です。2.7倍あたりがよく採用されます。
そしてここで重要なのが「最終報酬月額」という部分。退職直前の役員報酬月額が、そのまま計算式に入ってくるのです。つまり、現役中の報酬水準が、将来の退職金の大きさをほぼ決めてしまうということになります。
月10万円の差が、退職金810万円の差になる
在職30年・功績倍率2.7倍で、具体的に試算してみましょう。
- 月額40万円の場合:40万円 × 30年 × 2.7 = 3,240万円
- 月額50万円の場合:50万円 × 30年 × 2.7 = 4,050万円
その差は、ちょうど810万円。
月にたった10万円の違いが、退職時に800万円以上の差となって返ってくる。数字にすると、その重さが伝わると思います。報酬を上げれば法人の費用が増えるので法人税は少し下がりますが、それ以上に退職金への影響が大きいのです。
退職金には、給与にはない税制優遇がある
810万円の差がさらに大きく感じられるのは、退職金の受け取り方が給与と根本的に違うからです。
退職所得は、まず在職年数に応じた「退職所得控除」を差し引いた後、その残額の半分にしか税率がかかりません。勤続30年なら控除額は1,500万円。仮に退職金が3,000万円でも、課税対象は750万円にとどまります。
月々の役員報酬として同額を受け取れば所得税・住民税がそのままかかりますが、退職金として受け取れば税負担は大幅に軽くなる。トータルの手取りで見たとき、この差はさらに広がります。
「退職直前だけ上げる」は税務調査で狙われます
ここで一つ、大切な注意点をお伝えしなければなりません。
「退職の2〜3年前だけ月50万円に上げて、あとは下げよう」という発想は、税務調査でほぼ確実に目をつけられます。実態のない報酬増額と判断されると、退職金の一部が「不相当に高い」として否認されるリスクがあります。
適正な退職金と認められるためには、最終報酬月額が「継続的な経営実績の結果」である必要があります。数年間かけて段階的に引き上げ、業績や役割の変化に合わせた理由を整え、株主総会や取締役会の議事録にきちんと残しておく——そうした地道な準備が、いざというときの根拠になります。
今の報酬設計が、10年後の退職金を決める
退職金の話は、引退が近づいてから考えればいい——そう思っている経営者が多いのですが、それが最大の落とし穴です。退職まで10年以上ある今だからこそ、報酬水準を見直す意味があります。
毎月の報酬を少し上げることで将来の退職金が大きく変わり、退職所得の優遇税制をフルに活かせる。このシナリオが成立するのは、計画的な設計あってこそです。
まだ役員報酬を「なんとなく」決めているなら、一度税理士と一緒に退職金の試算から逆算した報酬設計を考えてみてください。役員報酬の改定は定時株主総会のタイミングが一般的ですので、決算が近い方は今すぐ動くのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。