先日、ある社長からこんな相談を受けました。「保険で節税してきたのに、解約したら税金だらけで、思っていたより全然手元に残らなかった」という内容です。

話を聞いていくと、原因はすぐにわかりました。保険に加入したときの「節税できる」という話だけが頭に残っていて、解約時の設計をまったく考えていなかったのです。

法人保険を活用した節税は、今も多くの中小企業オーナーに使われている定番の手法です。ただし、入口の節税効果ばかりに目が向いて、出口の設計を怠ると、数百万円単位の損失につながることがあります。

解約返戻金には法人税がかかる

まず基本を押さえておきましょう。法人が受け取る解約返戻金は「益金」として扱われ、法人税の課税対象になります。

たとえば、毎年200万円の保険料を10年間経費に落としてきたとします。解約時に返戻金が戻ってきても、その相当額は益金として計上されます。節税したつもりが、実は課税を先送りしていただけという状態です。

「入口で経費になるなら得だ」と思って加入したのに、出口で丸ごと課税されてしまえば、メリットが大幅に薄れます。それどころか、タイミングを間違えると純粋な損になるケースもあります。

落とし穴① 解約が遅すぎた

法人保険には「解約返戻率」という指標があります。払い込んだ保険料に対して、解約時に何割戻ってくるかを示す数字です。

この返戻率には「ピーク(最高点)」があります。契約から一定期間が経つと返戻率が最大になり、その後は徐々に下がっていく構造のものが多いのです。

ピークを過ぎてから解約した場合、返戻金が数十万円単位で減っていることがあります。「まだいいか」と先延ばしにしているうちに、じわじわと損が積み上がるわけです。

毎年の決算時に、現在の返戻率と今後の推移を保険会社に確認しておくことが、最初の防衛策になります。

落とし穴② 退職金と解約のタイミングがズレた

こちらが、より深刻な落とし穴です。

役員退職金は「損金」として計上されます。そのため、解約返戻金(益金)と退職金(損金)を同じ決算期に計上できれば、両者が相殺されて法人税の負担を大きく抑えることができます。

ところが、「退職金はまだ先の話」と思って保険だけ先に解約してしまうと、返戻金への課税だけが先行します。その後に退職金を支払っても、期が違えば相殺はできません。

このタイミングのズレだけで、300万円以上の税負担が余分に生まれたケースは珍しくありません。設計ミスというより、「設計していなかった」ことが原因です。

正解は退任と解約を同じ期に合わせること

結論はシンプルです。役員が退任するタイミングに合わせて保険を解約し、その返戻金を退職金の原資に充てる。これが基本の設計です。

益金と損金が同じ期に計上されることで、課税額を最小化できます。退職金の金額は勤続年数や役員功績倍率をもとに計算するため、事前に顧問税理士とシミュレーションしておくことが不可欠です。

保険に加入する時点から、「いつ、誰が退任するか」という出口シナリオを描いておくこと。これが、法人保険を本当の節税として機能させる唯一の方法です。

今期中に確認しておくべきこと

現在、法人で保険に加入しているなら、以下を顧問税理士と一緒に確認してみてください。

  • 現在の解約返戻率と、ピーク時期はいつか
  • 役員退任の想定時期と、解約タイミングが合っているか
  • 退職金のおおよその金額と、返戻金との差額はどのくらいか

特に役員が50代後半に差し掛かってきたなら、今期中に出口設計を整理しておくことをおすすめします。入口の節税だけで満足せず、出口まで設計して初めて「節税が完成した」と言えるのです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。