先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「10年かけて積み立ててきた法人保険をそろそろ解約しようと思っているんだけど、タイミングってそんなに関係ある?」

この一言を聞いて、私は少し身構えました。タイミングを間違えると、数百万円単位で手元に残るお金が変わってしまうからです。

「ピーク年」だけを気にしていませんか?

法人保険を積み立てている社長であれば、「解約返戻率のピーク年」という言葉は聞いたことがあるはずです。たとえば加入15年目に返戻率が最大になる商品なら、16年目以降は受け取れる金額が下がっていく。だから「ピークを逃すな」とよく言われます。

これは正しい知識です。ただ、ここで思考が止まってしまっている社長が非常に多い。

本当に恐ろしいのは、ピーク年に解約しても「税額の計算を忘れていた」というパターンです。

解約返戻金1,000万円に300万円の税がかかる現実

仮に、解約返戻金として1,000万円が会社に入ってきたとします。これは益金として計上されるため、そのままでは法人税の課税対象になります。

税率をざっくり30%とすれば、300万円が税金として消えていきます。手元に残るのは700万円です。10年間、毎月コツコツ掛け金を払い続けた結果が700万円。どこか割り切れない感覚がありませんか。

ここに、知っているかどうかで差がつくポイントがあります。

役員退職金と「同じ年度」に解約する

解決策はシンプルです。役員退職金を支給する年度に合わせて、法人保険を解約する。これだけです。

役員退職金は損金として計上できます。1,000万円の解約返戻金が益金に立つ一方で、退職金が損金として同じ期に計上されれば、両者が相殺されます。結果として課税所得が圧縮され、法人税の負担はほぼゼロに近づきます。

タイミングをずらすだけで、手元に残るお金が300万円以上変わる。これが法人保険の「本当の落とし穴」です。

よくある失敗パターン

現場でよく見かけるのは、こういうケースです。

社長が「そろそろ解約しようか」と思い立ち、保険会社の担当者に連絡する。担当者から「今年がちょうどピークですよ」と言われ、その場で手続きを進める。翌年の決算で税理士から「今期の利益が大きく増えていますね」と指摘されて初めて気づく。

退職金の予定は翌年度だったのに、1年のズレで数百万円の税を余分に払ってしまう。このパターンが非常に多いのです。

解約を考え始めたら、まず「退職金のタイミング」を確認する

保険の解約を検討するときの正しい順番は、次の通りです。

まず「いつ、誰に、いくらの退職金を出す予定か」を先に決める。その上で、退職金の支給年度に合わせて解約のスケジュールを逆算する。ピーク年がその年度からずれているなら、少し待つか、前倒しにするかを検討する。

返戻率が1〜2%下がったとしても、税金で300万円を取られるよりはるかにマシ、というケースも十分にあります。「返戻率の最大化」と「税額の最小化」は、必ずしも同じ年度に実現するわけではありません。

手続きは「半年前」から動き始める

実務的な注意点として、退職金の支給と保険の解約は、少なくとも半年前から準備を始めてください。

退職金の金額は税務上の適正額(功績倍率などを使った計算)に沿っている必要があり、事前に株主総会の決議も必要です。保険の解約手続き自体も、書類の準備や保険会社との調整に時間がかかります。

「決算月が近づいてから慌てて動く」では、タイミングの最適化ができません。

今、積み立て型の法人保険を持っている社長は、一度「あと何年でピークを迎えるか」「そのタイミングで退職金を出せる役員はいるか」を顧問税理士と一緒に確認してみてください。今すぐ解約する予定がなくても、出口設計を頭に入れておくだけで、将来の選択肢がぐっと広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。