先日、ある建設業の社長からこんな相談を受けました。「10年前に、節税になるからと勧められて、年間300万円の法人保険に加入しました。そろそろ解約時期なんですが、返ってくるお金が思ったより少ないと言われて…」
その社長が10年間で払い込んだ保険料の総額は3,000万円。しかし実際に手元に残る金額を計算してみると、法人税の負担が重くのしかかり、「あれ、これって本当に節税だったの?」という結果になっていました。
法人保険にまつわる「節税神話」は、今でも多くの中小企業オーナーの間に根強く残っています。でも実態は、入口だけ見ていると、出口で大きな税負担が待っているという構造になっているのです。
「損金算入できる=節税」は危険な思い込み
法人保険が節税として語られてきた背景には、保険料の一部または全部を損金算入できるという仕組みがあります。損金に算入できれば、その分だけ課税所得が減り、法人税が安くなる。一見、理にかなっているように見えます。
ところが2019年、国税庁が通達を改正しました。それまで「節税保険」として人気を集めていた、返戻率の高い保険商品——特に逓増定期保険や法人がん保険——について、損金算入できる割合が大幅に制限されたのです。
具体的には、最高解約返戻率が85%を超えるような保険は、支払保険料のかなりの部分が「資産計上」扱いになります。つまり損金にならない。「節税のために入ったのに、損金にならないなら意味がない」という状況が、2019年以降の加入者には当たり前のように起きています。
お金が本当に消えるのは「解約するとき」
さらに問題なのが、解約時の処理です。
法人保険を解約すると、保険会社から解約返戻金が戻ってきます。この返戻金は会社の「収益(益金)」として計上されます。つまり、そのまま課税対象になるのです。
たとえば3,000万円の返戻金が戻ってきたとして、他に何も損金がなければ、そこに実効税率30〜35%の法人税がかかります。計算すると、900万〜1,050万円が税金として消えていく計算です。
「払った保険料は損金になったのでは?」と思うかもしれません。でも損金算入の恩恵は限定的で、解約時には返戻金のほぼ全額が益金になる。結果として、課税を先送りしただけで終わってしまうのです。
「出口設計」があるかどうかが、すべての分かれ道
では法人保険はまったく意味がないのか、というと、そうではありません。
鍵になるのは「いつ解約するか」「何と組み合わせるか」という出口設計です。
たとえば、社長が退職するタイミングで保険を解約すれば、同じ年度に退職金を損金計上できます。退職金は金額が大きければ数千万円規模の損金になるため、返戻金の益金と相殺することができます。社長の在任年数が長く、退職金の計算根拠が固まっているほど、この効果は大きくなります。
他にも、設備投資による特別償却や、役員報酬の変更タイミングと組み合わせる方法もあります。いずれにしても、保険に加入する段階から「解約時に何と組み合わせるか」をセットで設計しておく必要があります。
今すぐ確認してほしい4つのこと
もし今、法人保険に加入中であれば、以下を担当税理士と確認してみてください。
- 最高解約返戻率は何%か(保険証券に記載、または担当者に確認)
- 実際に損金算入されている金額はいくらか
- 解約返戻のピーク時期はいつか(10年後?15年後?)
- そのタイミングで、どんな損金が確保できるか
この4点を把握できていれば、まだリカバリーの余地があります。逆にこれが整理できていない状態で加入しているなら、今から出口設計を見直すべきタイミングです。
「入口の話」しかしない担当者には注意
法人保険のセールスに来る人は「節税になります」「損金算入できます」という入口の話をします。でも優秀な税理士や保険の専門家は、必ず「解約時はどうなるか」「退職金のタイミングとどう合わせるか」という出口の話をセットでします。
入口の話しかしない担当者に勧められるまま加入するのは、今の時代かなりリスクが高いと思ってください。
年間300万円、10年で3,000万円。この金額を「安全に積み立てた」つもりが、出口設計なしでは法人税に大きく削られる結果になります。加入中の保険がある方は、今期中に担当税理士と一度、解約プランを整理してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。