先日、顧問先の社長からこんな電話がかかってきました。「毎月80万円の法人保険を払ってるんですが、これって本当に節税になってますよね?」──。
正直に答えるとすれば、「2019年以降に加入した保険なら、ほぼなっていません」。その社長は少し沈黙した後、「え、じゃあ何のために払ってたんですか」とつぶやきました。
2019年前後で何が変わったのか
2019年6月以前、法人保険は社長の「定番節税ツール」でした。保険料を全額損金に算入できる商品があり、「払えば払うほど税金が減る」と信じて契約した経営者が全国にたくさんいます。
その常識を根底から覆したのが、2019年の国税庁による通達改正です。
改正の骨子はシンプルで、「保険料の損金算入率は解約返戻率に応じて制限する」というものです。つまり、もらえるお金が多い保険ほど、経費にできる割合が少なくなる──。高返戻率の商品ほど規制が厳しくなるという構造です。
損金算入率が「激減」した現実
改正後のルールでは、解約返戻率が85%を超える保険商品の場合、損金に算入できるのは保険料のうちわずか10%です。残り90%は「資産計上」、つまり経費ではなく会社の資産として積み立てられていく扱いになります。
たとえば、年間600万円の保険料を払っているとします。損金になるのは60万円、残り540万円は資産として会社のバランスシートに積み上がっていきます。節税効果として実感できるのは60万円分の法人税相当額だけ、ということです。
しかしここで終わりではありません。
「出口」で待ち受ける課税の罠
保険を解約したとき、受け取る解約返戻金は全額「益金算入」されます。これはシンプルに言えば、解約返戻金の全額が会社の利益として課税対象になる、ということです。
資産計上してきた分が、一気に利益として処理されます。「払うときは一部だけ経費、受け取るときは全額課税」──この非対称さが、実質的な節税効果をほぼゼロにしてしまうのです。
さらに言えば、毎月の保険料が大きいほど、資産計上の累計額も膨らみます。10年、20年と払い続けた後の解約時には、億単位の課税が発生するケースも珍しくありません。「これ、いつ解約すればいいんですか」と頭を抱える社長が後を絶たないのはそのためです。
今も保険を続けている社長へ
すでに保険に加入している場合、選択肢は大きく3つあります。
ひとつは現状維持。経営者への退職金の原資として割り切り、節税ではなく「積み立て」として保有し続けるケースです。利回りが悪くても、手堅く貯める手段として機能することはあります。
もうひとつは払い済み保険への変更。保険料の支払いをやめて保障を小さくする代わりに、解約は避けて含み益をキープするやり方です。
そして三つ目が解約。出口の課税を受け入れた上で、今すぐ整理してキャッシュを手元に戻す選択です。解約するなら赤字が出た決算期や、他に大きな損が出るタイミングに合わせると影響を抑えられます。
どれが正解かは、会社の業績と税務状況によって異なります。「どうせ解約時に課税されるなら同じ」ではなく、タイミング次第で数百万円の差が出ることもあるため、必ず税理士と一緒にシミュレーションしてください。
新規加入は本当に気をつけて
最後にひとつお伝えしたいのは、「これから法人保険に入ろうとしている社長」への警告です。
保険代理店の営業担当から「節税になりますよ」という提案を受けた場合、それが2019年改正後のルールを踏まえた説明になっているか、必ず確認してください。「損金算入率は何パーセントですか」「解約時の益金処理はどうなりますか」──この2点を聞くだけで、相手がどこまで理解しているかがわかります。
法人保険が節税ツールとして機能する時代は、すでに終わっています。それよりも効果が高い節税手段は他にいくつもあります。今の保険契約を一度見直し、本当に会社に必要な保障設計に組み替えるタイミングとして、今期の決算を使ってみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。