先日、愛知でご活躍の製造業の社長からこんな話を聞きました。63歳で会社を後継者に引き渡した田中社長(仮名)が、引退時に受け取った退職金が2億円だったというんです。
「すごいですね。どうやって作ったんですか?」と聞いたら、こんな答えが返ってきました。
「30代のうちに3つのことをやっただけですよ。難しいことは何もしていません」
この言葉が気になって、詳しく教えてもらいました。今日はその内容をお伝えします。
2億円の退職金が、なぜ可能になったのか
退職金は、作り方によって手元に残る金額が劇的に変わります。
田中社長の場合、63歳の引退時に2億円を受け取りながら、その大部分を実質ほぼ無税で受け取ることができました。なぜそんなことが可能だったのか。鍵は「退職所得控除」という仕組みにあります。
退職所得の計算は非常に優遇されています。勤続年数に応じた控除額を引いた残りを、さらに2分の1にしてから税率をかける。30年勤務なら控除額だけで1,500万円。この構造を最大限に活かすには、できるだけ早い段階から設計しておくことが不可欠です。
田中社長が30代のうちにやった3つのことは、まさにこの「設計」を着実に積み上げていくものでした。
①33歳で退職金規程を整備した
最初にやったことは、会社に退職金規程を作ること。たったこれだけです。
ただし、中身が重要でした。在任年数と功績倍率を使ってしっかり設計された規程を整備したのです。田中社長の場合、在任30年・功績倍率2.5倍という設計になっていました。
功績倍率とは退職金の計算に使う係数で、「最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率」が退職金の原資になります。適切な水準で設定しておくと、退職時にしっかりした金額を受け取れる根拠になります。
逆に言うと、退職金規程がない会社は、社長がどれだけ長年貢献しても、退職時に「いくら払うか」を恣意的に決めるしかありません。規程を整備しておくことで、支払いは法人の損金になりますし、将来の受取額も明確になります。
「30代でそんなこと考えるの早すぎない?」と思うかもしれません。でも逆です。早ければ早いほど、時間を味方にできます。在任年数が伸びるほど、控除額も受取額も大きくなる仕組みだからです。
②月7万円を30年積み立てた
次にやったことは、小規模企業共済への加入です。
小規模企業共済とは、中小企業の経営者・個人事業主のための退職金積立制度で、月額1,000円〜7万円まで積み立てられます。この制度の最大のメリットは、掛金の全額が所得控除になること。つまり、積み立てながら毎年の所得税・住民税も減らせるというわけです。
田中社長は33歳から月7万円、年間84万円を30年にわたって積み立てました。累計の掛金だけで2,520万円になります。これが運用益とともに膨らんでいく。そして受け取るときも退職所得扱いになるため、課税が大幅に抑えられます。
毎月の掛金が所得控除になるので、年収が高い社長ほど節税効果は大きくなります。仮に所得税・住民税の合計税率が50%なら、月7万円の積立で毎年42万円の節税になる計算です。30年間で累計1,260万円。積立元本の半分近くが節税で賄えることになります。
まだ加入していないという社長には、今すぐ動いてほしい制度です。
③法人保険で退職金の原資を確保した
3つ目は、法人保険を使った退職金原資の確保です。
退職金規程を作っても、いざ支払うお金がなければ意味がありません。多くの社長が見落としがちなのが、この「財源の準備」です。
法人が保険料を払い続けることで、解約返戻金という形で資産を積み上げることができます。そのタイミングを退職時期に合わせて設計しておくと、退職金の支払い原資として活用できます。保険料は法人の損金になるものも多く、節税しながら退職金の財源を作れるのが特徴です。
もちろん、保険商品によって損金算入の割合や解約返戻金のカーブは大きく異なります。単に「保険に入ればいい」ではなく、退職時期・退職金規程の内容・法人のキャッシュフローを組み合わせた設計が必要です。ここは税理士や保険の専門家と一緒に検討する部分です。
準備が1年遅れると何が変わるのか
田中社長がもう一つ、こんなことを言っていました。
「周りの同期経営者で、同じように準備していた人はほとんどいなかった。みんな50代になってから慌てて動き始めていたけど、そこからじゃ遅い」
退職所得控除は勤続年数で決まります。小規模企業共済は積立年数が長いほど受取額が増えます。法人保険の解約返戻金も、時間をかけるほど有利な曲線を描くものが多い。この3つに共通するのは、「時間が資産になる」という構造です。
準備を1年遅らせるということは、1年分の複利を捨てることでもあります。
まだ間に合う。今すぐ動いてほしい理由
退職金規程の整備、小規模企業共済への加入、法人保険の設計。どれも「やろうと思えばすぐできる」ことです。
でも、ほとんどの社長がやっていない。理由は「急ぎではないから」。引退はまだ先の話に感じてしまうからです。
ただ、田中社長の例が教えてくれるのは、「急ぎではない今」こそが最大のチャンスだということ。30代でこの3つを仕込んでおくだけで、引退時の手取り金額は大きく変わります。
まだ何も手をつけていないなら、まずは顧問税理士に「退職金の設計を相談したい」と一言伝えるところから始めてみてください。一言で動き出せることが、将来の数千万円の差につながります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。