「退職金の準備、どうしていますか?」と社長に聞くと、多くの方が「うーん、まだ考えていないですね」と答えます。会社の決算対策や設備投資には真剣なのに、自分の老後設計となると不思議と後回しになりがちです。
でも実は、退職金の「設計」こそが長期的な節税戦略の核心部分。特定の制度を正しく使えば、2,000万円超の控除を受けながら老後資産を作ることができます。今回はその仕組みを、できるだけわかりやすく解説します。
社長の退職金は「自分で作る」もの
会社員なら会社が退職金を用意してくれますが、中小企業のオーナー社長には「自動的に出てくる退職金」はありません。自分で制度を設計して、自分で積み立てていく必要があります。
そして大切なのは、ただ積み立てるだけでなく、「税制の優遇を受けながら積み立てる」こと。退職金には給与所得とはまったく異なる、非常に有利な課税の仕組みがあります。積み立て方を間違えると、その恩恵を受けられないまま退職を迎えることになります。
国が用意した中小企業オーナー専用の制度
小規模企業共済は、独立行政法人・中小機構が運営する、中小企業の経営者や個人事業主向けの退職金制度です。月々の掛金は1,000円から70,000円の範囲で自由に設定でき、1,000円単位で増減も可能です。
民間の保険とは異なり、国の機関が運営しているため元本割れのリスクが極めて低い。しかも掛金は将来の退職金として積み上がっていくので、「貯蓄」と「節税」を同時に実現できる仕組みになっています。中小企業のオーナーにとって、最初に使うべき制度のひとつと言っても過言ではありません。
退職所得控除2,060万円の計算根拠
ここが今回のポイントです。退職所得控除は勤続年数に応じて計算されます。
勤続年数が20年以下の場合は「40万円×年数」、20年を超えると「800万円+70万円×(年数−20年)」という計算式になります。
月7万円を38年間積み立て続けた場合を計算すると、「800万円+70万円×18年=2,060万円」となります。
この2,060万円を退職金の受取総額から差し引き、さらに残りの半分だけが課税対象になります。仮に退職金の受取総額が3,000万円だとすれば、課税対象はわずか(3,000万円−2,060万円)÷2=470万円のみ。同額の給与所得と比べると、いかに別格の課税方式かが伝わるかと思います。
積立中も節税になる「二重の恩恵」
小規模企業共済のもうひとつの強みが、掛金の全額が所得控除の対象になる点です。
月7万円を積み立てている場合、年間84万円がそのまま所得から差し引かれます。実効税率が40%前後の社長であれば、それだけで年間33万円以上の節税効果が生まれます。
この節税効果は積立期間中ずっと継続します。38年間続ければ、積立中の掛金控除だけで生み出す節税額は累計1,000万円を超えるケースも出てきます。
受け取り時の退職所得控除と、積立中の掛金控除。この二段構えの節税効果こそが、小規模企業共済を他の資産形成手段と大きく差別化する理由です。
知っておくべき注意点
ただし、いくつか押さえておきたい点があります。
ひとつは途中解約のリスクです。任意で解約した場合、積立期間が短いと元本を下回る可能性があります。長期の積み立てを前提にした制度ですので、短期での資金化には向きません。
もうひとつは受け取り時の設計です。同じ年に会社から退職金を受け取る場合、双方の退職所得控除は合算で計算されます。複数の退職金を受け取るタイミングは、事前に税理士と相談して設計することが重要です。
また、資金繰りが苦しくなったときに掛金を止めると「掛け止め」状態になります。減額できる柔軟性はありますが、対処法は事前に把握しておきましょう。
「遅すぎる」ということはない
「もう50代だから手遅れ」という声を聞くことがありますが、そんなことはありません。月7万円で10年間積み立てるだけでも、退職所得控除は800万円を超えます。掛金控除による節税効果も積み重なります。
大切なのは「いつ始めたか」ではなく、「始めるかどうか」です。申込みから最短1か月ほどで掛金が始まり、その時点から所得控除の対象になります。
まだ加入していない社長は、今期の決算対策のひとつとして、ぜひ担当の税理士や商工会議所の窓口に相談してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。