先日、愛知県で製造業を営む社長Kさんと話していて、こんな言葉が出てきました。

「保険料って、どうせ経費にならないですよね?」

年商2億円の会社を切り盛りしながら、毎月10万円・年間120万円もの保険料を払い続けていたのに、ずっとそう思い込んでいたそうです。ところが実際は、条件を満たせばその全額を損金算入できる可能性があります。今回は、Kさんのケースを参考にしながら、法人保険の経費化について整理してみます。

2019年の通達改正で何が変わったのか

法人が契約する生命保険の税務処理については、2019年に国税庁の通達が大きく見直されました。改正前は「返戻率が高い=経費にできない」という構図がシンプルでしたが、改正後は最高解約返戻率に応じて損金算入の割合が段階的に決まる仕組みになっています。

注目したいのは、最高解約返戻率が50%以下の保険は、支払保険料の全額を損金算入できるという点です。Kさんが加入していた保険が、まさにこのケースに当てはまっていました。

「50%以下って、ほとんど貯蓄性がない保険じゃないですか?」と思われるかもしれません。でも、保障を主目的に割り切った設計の商品であれば、この区分に収まるものは少なくありません。

年120万円の経費化で、実際いくら得するのか

Kさんは毎月10万円、年間120万円の保険料を払っていました。これを全額損金算入できると仮定すると、法人の課税所得が120万円下がります。

実効税率を約30%(中小企業の一般的な水準)として計算すると、

120万円 × 30% = 年36万円の節税効果

毎年36万円が手元に残る計算です。10年続ければ360万円。これを「大したことない」と思うか「長年見過ごしてきた分がもったいなかった」と思うかは人それぞれですが、Kさんはかなり悔しそうにしていました。

落とし穴:1契約の年払い保険料が30万円を超えると話が変わる

ただし、ここで見落としやすい条件があります。

最高解約返戻率50%以下でも、1契約あたりの年換算保険料が30万円を超えると、全額損金ではなく一部を資産計上する必要が生じます

これを回避するには、複数の契約に分散させる設計が有効です。ただし「細かく分ければいい」というわけでもなく、保険会社の最低保険料や商品ラインナップの制約もあります。分散しすぎると保障内容のバランスが崩れることもあるので、設計段階から専門家と相談するのが得策です。

返戻率によって、損金算入の割合は3段階で変わる

最高解約返戻率が50%を超える場合、扱いはさらに細分化されます。

  • 返戻率50%超70%以下:支払保険料の60%を損金算入、40%を資産計上
  • 返戻率70%超85%以下:支払保険料の40%を損金算入、60%を資産計上
  • 返戻率85%超:解約返戻率がピークを迎える時期に応じてさらに細かく計算

数字だけ見ると「返戻率を低くして全額損金を狙う」のが合理的に思えます。ただし、それが法人にとって本当に得かどうかは、保険の目的(純粋な保障なのか役員退職金の積み立てなのか)と組み合わせて判断する必要があります。節税額だけを最大化しようとして、本来必要な保障が薄くなってしまっては本末転倒です。

Kさんのケースで実際に何が起きていたか

Kさんの場合、顧問税理士に現状の契約内容を確認してもらったところ、加入中の保険がすでに「全額損金」の要件を満たしていることが判明しました。

契約変更は一切不要。問題は、これまでの申告処理が正しく行われていなかった点にありました。修正申告の可否については顧問税理士と確認中ですが、少なくとも今期からは適正に処理できる見込みです。

「保険料は経費にならない」という思い込みだけで、何年も節税の機会を逃していたわけです。思い込みのコストは、意外と高くつきます。

保険証券を引っ張り出すだけで見つかることがある

法人保険の税務処理は、2019年の通達改正以降、複雑になった面もある一方で、条件次第では全額損金という明快なルールも整備されています。

自社の契約がどの区分に当てはまるのか、顧問税理士に一度棚卸しを依頼するだけで、見過ごしていた節税の余地が見つかることがあります。特に複数の保険契約を抱えている社長は、契約設計を整理し直すだけで毎年の手取りが変わる可能性があります。

今期の決算前に、保険証券を全部引っ張り出して税理士に見せる。それだけでKさんと同じ発見ができるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。